公共交通の無料化は本当にエコなのか? 欧州の事例から学ぶ

ストラスブール市を走るトラム|olrat / Shutterstock.com

◆乗客が少なければエコとはいえないバス
 ところで、一般に言われるように、バスは本当に乗用車よりエコロジカルなのだろうか? 一台ごとにみれば、当然ながら乗用車よりバスのほうがはるかにCO2排出量が多い。バスは乗用車10台分以上の重量があるからだ。それでも、バスのほうがエコロジカルだといわれるのは、輸送人員1人当たりのCO2排出量を計算しているからだ。つまり、少ない乗客で走るバスは、必ずしも乗用車よりエコとは限らない。さらに言い換えると、CO2排出量がゼロである自転車や徒歩移動者が減るだけで乗用車利用が減らないのなら、バス利用客が増えてもエコロジカルな効果は皆無なのだ。

 もちろん、ハイブリッドや電気のバスであれば、CO2排出量は低くなるだろう。しかし、これらのバスは高値であるため、買い替えに踏み切れる自治体は案外多くない。公共交通機関無料化を図る自治体にとっては、さらに資金獲得は難しい課題となるだろう。無料化は、逆にエコ化を阻む可能性もあるわけだ。

◆CO2排出量だけで測れないEVのエコロジー度
 さらに付け加えるなら、電気自動車の製造過程から廃棄までを見渡すと、電気自動車=エコロジカルという前提にも疑問が生じる。マリアンヌ紙が9月18日に掲載した寄稿記事もその点を指摘する。たとえば、「コバルトやリチウム、マンガン、ニッケル、グラファイトなど、バッテリーの主成分の抽出プロセスは大量の水を消費し、土壌を不毛にし、恒久的に水を汚染し、深刻な病の原因ともなりえる」ものだ。また「これらのバッテリーの寿命は1000~1500回の充電・放電サイクル」しかなく、「現在リサイクルができるのは、そのうち半分の成分のみ」ときている。同記事は、世界では現在電子廃棄物が、年間5000万トン発生しているが、リサイクルされるのはわずか17%に過ぎないことから、電気自動車の増加は、さらに廃棄汚染物質を増やすだけではないのかとも警告している。

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Text by 冠ゆき