脱車社会、バイデン政権がバス・鉄道整備へ 高速鉄道は?

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 バイデン米大統領は、約2兆ドル(約220兆円)のインフラ整備計画を発表した。車社会のアメリカでは、これまで道路整備に多額の費用が使われてきたが、今回は公共交通機関への予算を大幅に増やした形となっている。脱炭素社会に向けての必要な動きとされており、実現するかどうかが注目される。

◆自動車から公共交通へ 車依存を減らす取り組み
 テクノロジー系メディアWIREDによれば、アメリカの道路網は410万マイル(約660万キロ)で世界最長だ。主要国のなかで最も1人当たりの自動車台数が多く、86%が車で通勤している。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、過去65年間にアメリカは10兆ドル(約1100兆円)近くの公的資金を道路に注入してきた。電車やバスといった公共機関には、その4分の1しか投じられていない。

 しかしバイデン政権は、今回のインフラ投資で、公共交通機関への連邦政府の支出を大幅に増やす考えだ。計画の一環として、8年間で850億ドル(約9.3兆円)を都市の公共交通システムの近代化と拡張のために使うとしている。年単位で見れば、これまでの公共交通への支出の2倍に相当する額だ(NYT)。

◆脱炭素を意識 新規の道路建設も抑制
 今回の計画には、気候変動という正当な理由があるとWIREDは述べる。バイデン大統領は気候変動に取り組む努力を変革的に進展させると表明しており、2050年までには二酸化炭素の排出量をゼロにすることを約束している。脱炭素には電気自動車の普及が期待されるが、移行には数十年かかると見られている。一人乗りでの車の利用も多く、全体の運転距離を減らす必要があり、当分の間は公共交通機関の利用が望ましい。

 計画では1150億ドル(約12.6兆円)を道路に投じるが、新規の建設ではなく、既存の老朽化した道路や橋の修理に重きを置いている。実はアメリカではこれまで、渋滞緩和のために新規の道路建設や既存の道路の幅拡張などで対応しており、これが結果的により車を増やし渋滞を悪化させていることが複数の研究でわかったという。優先度を車より公共交通に与える今回の計画は、都市政策の専門家からも「劇的なシフト」と評されている(NYT)。

Text by 山川 真智子