バーガーキングも試験販売 植物由来の「肉」が米で人気

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アメリカでは、大豆のミニバーガーからレンズ豆のソーセージにいたるまで、100%プラントベース(植物由来)の肉の人気が高まっている。そして消費者の多くは、ヴィーガンでもベジタリアンでもなく、肉を好んで食べる人たちである。

ヘルシー志向の高まりを受け、より環境に優しい食品であることが、プラントベースの肉に人気が集まる理由の一つである。オーツ麦ミルクやカリフラワーを使用したピザ生地、ココナッツオイルを原料とするスキンケア商品の売り上げが上昇している背景もまた同様である。

「植物には強い効力があるという話はよく聞きます。即効薬になるものであり、本当に自分自身にとって良いものだというイメージがあります」と、コンサルティング会社ミンテルのアナリストで、世界的な食品業界を専門とするメラニー・バーテルム氏は述べる。

技術の進歩と巧みなマーケティング戦法もまた、売り上げを押し上げている。マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏が出資している「インポッシブル・フーズ」や「ビヨンド・ミート」など、新しく誕生したスタートアップ企業は、見た目も味も本物の肉のようなプラントベースの食品を販売し、肉を食べる消費者の心をつかんできた。

「肉が大好きな人でも、その肉が死んだ動物からもたらされるものだという事実を好ましくは思わないでしょう。感覚的な満足感や親しみやすさから肉を好んでいるのです。植物から作られるもので高い評価を得られる食品を提供できれば、肉を楽しむ人々を振り向かせるだけでなく、むしろ購入したいと思って頂けると思います」と、インポッシブル・フーズのCEOパット・ブラウン氏は話す。

ロサンゼルス発のビヨンド・ミートは、スーパーマーケットの精肉コーナーに陳列され、販売されている。従来の野菜バーガーのように、冷凍コーナーや自然派食品コーナーに紛れ込んでいるわけではない。また、肉汁あふれるハンバーガーを売り物にしているレストランチェーン、カールスジュニアやTGIフライデーズなどでも提供されている。

シリコンバレーに拠点を置くインポッシブル・フーズは、3年前、ニューヨークにあるモモフク・ニシなどの著名レストランでハンバーガーを提供し始めた。その後、ハンバーガーレストラン・チェーンのホワイト・キャッスルを始め、アメリカ国内やアジア域内で5,000店舗を超える飲食店と協業してきた。

4月1日、バーガーキングはインポッシブル・バーガーを販売すると発表した。グローバルに展開するファストフード・レストランでは初の試みとなる。ミズーリ州セントルイスにある59店舗において今春、「インポッシブル・ワッパー」という名のパテを使ったハンバーガーが試験的に販売される。

バーガーキングのメニューには、すでに野菜バーガーがある。人参、マッシュルーム、オーツ麦、その他食材から作られた、モーニングスターファーム(米ケロッグ社のベジタリアン向け食品部門)のパテが使用されている。しかしそれは主として、ヴィーガンやベジタリアンを対象にしたものであると、北米バーガーキングを率いるクリス・フィナッゾ氏は述べる。

バーガーキングが行ったリサーチによると、プラントベースの肉を購入する顧客の9%がベジタリアンであり、一方で、肉も食べるがよりヘルシーな食品を求めて購入する顧客が90%を占めるという。

「ハンバーガーを毎日食べたいと思う人は多くいますが、肉を毎日食べたいかというと必ずしもそうではありません」とフィナッゾ氏は述べる。

ミンテルのアナリスト、バーテルム氏によると、ヴィーガンもしくはベジタリアンが占める割合はアメリカ全人口のわずか7%程度であり、ここ数年で目立った変化はない。代わりに、「ゆるやかなベジタリアン」に転じる人が増え、さまざまなな食事を選りすぐっているという。

通常のパテに比べ、インポッシブル・ワッパーの方がヘルシーな点もあるが、全ての点においてそういうわけではない。本物の肉を使ったパテが660カロリーであるのに対し、インポッシブル・ワッパーは630カロリーである。そして、飽和脂肪、トランス脂肪、コレステロールの値は低いが、ナトリウムと炭水化物はより多く含まれている。タンパク質の含有量はほぼ同量だ。

一方で、モーニングスターの野菜バーガーは390カロリーで、脂肪もコレステロールもより低い。ナトリウムと炭水化物の含有量は、通常のパテとほぼ同じである。

肉を使用しないハンバーガーがもたらす利点は他にもある。ビヨンド・ミートによると、プラントベースの肉を使用してハンバーガーを作る場合、必要な水の99%、土地の93%、エネルギーの50%を削減することができ、さらに、排出される温室効果ガスは90%減少するという。

アメリカの食肉業界を支援する北米食肉協会は、畜産から排出される温室効果ガスはアメリカ全体の4%ほどでしかないと反論する。そして、肉の国内消費量は、好景気の影響で2018年に過去最高を記録すると予想されていた。

それでもやはり、アメリカにおけるプラントベースの肉の売り上げは、本物の肉と比較すると急速に上昇している。調査会社ニールセンによると、プラントベースの肉の国内年間売上高は、2016年3月から2019年3月の間で42%上昇し、計8億8,800万ドル(約994億円)となった。従来の本物の肉の売上高は、同期間で1%上昇し、850億ドル(約9.5兆円)である。

バーテルム氏は、プラントベースの肉の流行が下火になることはないと予測する。クール・フーズ社から販売されたインゲン豆でできたベーコンビッツなど、これまでの5年間で販売開始された肉代替食品の数は25%増加している。

将来的に同業の大企業に飲み込まれてしまう小さなブランドがあるかもしれないと、バーテルム氏は話す。同氏はまた、精巧な化学技術に頼りながら肉を製造する企業に対し、反対の意思を示す消費者が現れるのではないかと考える。インポッシブル・フーズは遺伝子操作したイースト菌からヘムを作り出している。ヘムは植物にも動物にも存在する分子で、ハンバーガーに肉本来の風味をもたらす。カリフォルニアにあるスタートアップ企業、メンフィス・ミーツは、動物の細胞から肉を培養している。

「おそらく、豆や野菜から作られた、昔ながらのハンバーガーも復活することになるでしょう」と、バーテルム氏は話す。

一方で、インポッシブル・フーズのCEOブラウン氏はこれを誤解だと指摘し、科学は食物連鎖のあらゆる過程に介在していると話す。

「世界中にあるほとんど全ての食べ物は、木から摘み取ったばかりのものではありません。私たちが口にする食べ物は、科学と研究、創意工夫が組み合わさって出来た自然の産物なのです」。

By DEE-ANN DURBIN AP Business Writer
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP