ヒマラヤ氷河、2100年までに3分の1消滅の恐れ パリ協定の目標達成でも

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 ある調査によると、現行の気候変動緩和対策が効果を発揮したとしても、今世紀末にはヒマラヤ氷河の3分の1が気候変動の影響により溶け、19億人分の水資源が枯渇する恐れがあることが明らかになった。

 世界規模で行われている気候変動緩和対策が失敗に終わったとすると、その影響はさらに深刻だ。国際総合山岳開発センターが2月4日に発表した『ヒンズークシ・ヒマラヤ地域アセスメント』によると、その場合には、2100年までにヒマラヤ氷河の3分の2が消滅するという。

 同センターの所長で、報告書の筆頭著者を務めたフィリップ・ウェスター氏は、「8ヵ国にまたがるヒンズークシ・ヒマラヤ地域の山頂部分は、極寒地帯で氷河に覆われているが、地球温暖化の影響が及んでいるため、あと100年弱で岩がむき出しの状態になってしまう」と言う。

 5年間にわたり行われた今回の研究では、アジアのアフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、中国、ブータン、バングラデシュ、ミャンマーをまたぐ地域における気候変動の影響を調査した。世界最高峰の山を有するこの地域には氷河があり、その水はインダス川、ガンジス川、長江、エーヤワディー川、メコン川などの河川へと流れ込んでいる。

 報告書によると、氷河の融解により、河川の流出量が増加するため洪水が発生したり、氷河に堆積した黒色炭素や塵が原因となって空気汚染が悪化したりするといった影響が及ぶ可能性がある。

 ダッカにある環境研究施設、気候変動・開発国際センターのサリームル・ハク所長は、報告書を受け、特にバングラデシュを始めとする下流域の国々には「大きな警戒が必要だ」と言う。

 同氏はメールで、「影響を受けるいずれの国も、今後起こり得るこの問題が危機的な状況となる前に、最優先課題として取り組む必要がある」と述べている。ハク氏は、外部査読者の1人として今回の研究に参加した。

 研究によると、最も大掛かりな取り組みであるパリ協定が掲げる、今世紀中の地球の温暖化を1.5 °Cに抑えるという目標を達成したとしても、ヒマラヤ氷河の3分の1超は消滅する見込みだ。また、世界気温が2°C上昇した場合には、ヒマラヤ氷河の3分の2が融解するとしている。

 2015年のパリ協定の締結は、考え方の大きく異なる国々が地球温暖化への取り組みに向けて団結するきっかけとなり、国際外交においては重大な瞬間となった。協定では、世界の平均気温を1.5°C以上上昇しないようにすることを最大の目標としている。

 気候変動に関する政府間パネルが最近発表した報告書によると、パリ協定で定められるように世界気温の上昇を1.5°Cにとどめるには、温室効果ガスの中で最も量の多い二酸化炭素の排出量を、地球が吸収できるレベル(ネットゼロ)まで減らす必要がある。

 カトマンドゥに拠点を置く国際総合山岳開発センターによると、今回の研究には22ヶ国から350人超の研究者と、政策専門家が参加した。また、著者数は210人、外部査読者数は125人である。地域の国々のほか、オーストラリア、オーストリア、ノルウェー、スイス、イギリスなど他地域の国々や、USAID(アメリカ合衆国国際開発庁)を始めとする国際的プログラムからも寄付を受けている。

By BINAJ GURUBACHARYA, Associated Press
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP