食をめぐる問題

© Yumiko Sakuma

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 アメリカの食事は、この10〜15年ほどで驚くほどおいしくなった。2000年代にブルックリンやポートランド、サンフランシスコに開花したフードカルチャーについては『ヒップな生活革命』に詳しく書いたが、70年代にアメリカに登場したファーマーズ・マーケットが再び盛り上がり数を増やし、100マイル(約160km)以内で栽培された穀物や野菜を食べるムーブメント、ローカヴォアが生まれた。レストランのメニューに「Locally grown and sourced(地元で栽培・調達された)との文言を見ることが当たり前になった。自分の生活圏の近くで作られた食料を食べることで、地元の経済をサポートすることができるだけでなく、輸送などの環境コストがかからないし、何より自分の口に入れるものの出どころがはっきりしている、といった利点があるのだと謳われた。ニューヨークでは、2000年代に生まれた、都会のビルの屋上や公園で農業を行なう「アーバン・ファーム」がどんどん増えている。

 農薬などを使わずに有機的な方法で作られた野菜はおいしい。放牧で育った動物の肉はおいしい。熟れたものだけを丁寧に手摘みで穫った豆をローストしたコーヒーはおいしい。旬の物を、最上のタイミングで食するのが一番おいしい。そんなふうにアメリカ人は、オーガニックや地産地消に夢中になった。2013年に380億ドルだった全米のオーガニックの食市場の規模は、2018年には30%も増えて、500億ドルを超えた。

 けれど、オーガニックや地産地消が盛り上がった理由は「おいしい」だけではない。United States Public Interest Research Group(USPIRG)が発表した調査によると、2013年から2018年にかけて食のリコール(回収)は10%を超えた。食のリコールといえばこれまで鶏肉や牛肉などの食肉が中心だったが、近年のリコールはアヴォカド、チーズ、スイーツなど、生鮮食品、缶詰、プロセスフードにまで幅が広がった感がある。大手食企業が生産しスーパーなどに広く流通する食べ物に対する信頼感が低下しているのはこのせいだ。

 また、医療費が高騰し、医療にアクセスするハードルがどんどん上がっているアメリカでは、グルメブームとともに健康/ウェルネスブームが盛り上がり、一大産業化している。特に、より予防的なアプローチを取るウェルネスへの意識が高まったことも手伝って、消費者たちのオーガニックやサステイナブルへの欲求は見過ごせないレベルになった。こうした動きは大企業にも波及し、マクドナルドやウォルマートといった、これまで「安い、早い」を最優先にビジネスを営んできた大手の食・小売企業ですら、オーガニック、ヘルシー、ケージフリー(籠や柵を使わない平飼い・放し飼い)といったコンセプトを取り入れるようになった。そして2017年には、オーガニック食品で全国区のチェーンに成長したホールフーズ・マーケットをアマゾンが買収した。

Text by 佐久間 裕美子