こんな時代の「いい会社」

stockfour / Shutterstock.com

 優秀な人材にアピールし、社員のモチベーションを高めるための企業側のひとつの方策として、プロフィット・シェアリング(利益分配)の形が多様になりつつある。前回も書いたデルタ航空は、そのプロフィット・シェアリングを採用する企業のひとつである。長年のスランプを経て2005年の破産法適用を申請したデルタ航空は、 今のエド・バスティアンCEOのもとで起死回生した。バスティアンは、従業員の給料を50%カットするのと引き換えに、経営が黒字に転換したら利益の15%をボーナスとして分配することを約束して社員のモチベーションを引き上げ、黒字に転換して以降、毎年、年に一度社員にボーナスを払っている。デルタ航空のこのエピソードは、プロフィット・シェアリングが企業のボトムラインを改善することになった例のひとつである。

 最近、労働者サイドからのムーブメントとして、「プラットフォーム・コーポラティビズム」という考え方が登場した。かつては社会経済の新しい形として期待された「シェアリング・エコノミー」と、フリーランス人口が活躍する「ギグ・エコノミー」の良いところを取って、プラットフォーム・エコノミーに対抗しようという考え方で、ニューヨークのニュースクール大学に籍を置くドイツ人研究者のトレバー・ショルツが提唱したものだ。

 ギグ・エコノミーにおいて雇い主は労働者に単発・短期の仕事の対価を支払うが、そこでは労働者の権利はほとんど保証されない。こうした状況に対抗するために、労働者のグループがオンラインのプラットフォームを構築し、個人の代わりに団体として仕事を引き受け、雇い主から集金した利益を労働者に分配する、いわばフリーランス人口の共同組合のような存在だ。ショルツは、こうしたプラットフォームを作りたい人たちが使えるオンライン・マニュアルを作成した。これを受けてニューヨークでは、これまで一人あたりの平均時給が9ドルだった掃除を請け負うクリーナーたちが集まり、サイトを作って共同でオーダーを受けるようになり、時給17ドルを達成した、というような例もある。こうした試みも、未来の「企業」の新しいあり方を示唆している。

 2020年のアメリカ大統領選挙を見据えて、民主党ではトランプ政権打倒の対抗馬を選ぶ準備選のキャンペーンが始まったばかりだ。民主党の候補者たちは、1%の富裕層、すなわち大企業とGAFAが富と社会をコントロールする世の中を変えるための方策を打ち出している。候補者のトップランナーと言われるエリザベス・ウォーレンも、前回の選挙でミレニアルたちを惹きつけたバーニー・サンダースも、企業が利益を労働者に分配することを義務付ける政策を提唱している。新しい形の企業のあり方が、ポスト資本主義の可能性を示している。

【Prev】第22回・アクティビストCEOって何のこと?
【Next】第24回・食をめぐる問題

Text by 佐久間 裕美子