こんな時代の「いい会社」

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 これまで書いてきたような動きを見て、アメリカの企業カルチャーが変貌しつつあるのを感じている。

 これまで、上場企業というものは、株主たちに還元する利益で評価されてきた。だからこそ、伝統的に政治からは距離を置き、ときには労働者を搾取したり、消費者を騙したりしても、右肩あがりの成長を目指すことが奨励されてきたのである。2000年代に企業の社会責任(CSR)という概念が登場・普及して、利益を追求すること以外の社会活動が企業に対するプラスアルファの評価軸として加わった。そして今、企業に求められることはさらに大きくなっている。

 現在アメリカでは、高スキル職から低スキル職まで、幅広い分野や職種で雇用成長が続き、労働者を確保する競争が激しくなっている。人手不足は深刻で、巨大スーパーチェーンのターゲットやコストコなど、必要な人員を確保するために賃金を上げる企業も出始めた。そしてミレニアルは、最大の労働者ブロックでもある。ミレニアルの優秀な人材を確保するためにも、企業は「いい会社」を目指す必要があるのだ。

 私はよく会社を訪問する。インタビュー、企業のプロフィール記事、ミーティング、視察と、仕事の目的も訪問先の規模も様々だけれど、世の中の最先端を行く企業のオフィスを見せてもらうチャンスが多い。ニューヨークのメディアやアパレル企業からシリコンバレーのスタートアップまで、「最先端の会社」を頻繁に訪問する中で、現代の人々が考える「いい会社」の形が浮き彫りになる。

 いま勢いのある企業は、従業員を大切にしているか、福祉厚生は充実しているか、環境保護のためにどんな努力をしているか、社会責任をどう果たしているか、LGBTQや人種マイノリティのために何をしているかなどを(対外的に?)アピールする。社員の幸福度が生産性に直接影響があるという考えが浸透しているのだ。だから社員の満足度を優先事項のひとつとする。社員が日光や外気に触れやすい環境を整えたり、働くスペースのオプションを複数用意したりする。勤務体系を柔軟にし、個々の家庭環境に配慮する。従業員の健康状態、メンタルヘルスの向上を促進するためのインフラを整備する。グループエクササイズをはじめ、社内の団結力を強めるプログラムを採用し、組織内の社交を奨励する。ラディカルな会社の中には、社員に勤務時間の報告をやめさせたところすらある。

Text by 佐久間 裕美子