着なくなった服の行き先
昨年、東京でmother やDEPTなどの古着の店をやっているeriが、倉庫に連れて行ってくれた。ヨーロッパを中心に、アメリカや中東など世界中からトレーラーで古着が届く場所である。「恐ろしいほどの物量」とは聞いていたが、ブロック状にまとめられた巨大な古着の塊が何層にもなって、地上からてっぺんが見えない高さにそびえ立っている様子に息をのんだ。都内外のこういった古着が集まるウェアハウスに大型のトレーラーで運び込まれる古着の量は、増える一方だ。ショップのバイヤーがここへやってきて店に出すものを探すわけだが、シーズンごとにそれぞれの店のセンスやその時代のトレンドに合わせて買われていくので、価値のあるものも含めて、大量の商品が残る。シーズンがやって来るたびに倉庫に置かれる物の量は増える。
行きの車の中でeriが「みんなが探している物、みんなに求められる物だけでなくて、そこにあるもの全部が愛しい」と言った。自分はいくつか特定の分野の古着が好きだし、いつも探しているものがある。だから、「なんでも好き」とは言えないだろうなと思いながら聞いていたが、倉庫に積まれている大量の衣類を見て、愛情のような気持ちが生まれてきた。人の手や機械を通って作られ、誰かに買われ、一度は誰かの人生の一部だった服たちが、静かにそこで休んでいる、そんな風景に見えたのだ。
けれど現実問題、誰かが買ってくれなければ、この衣類はゴミになるか、ここに眠り続けることになる。とはいってもスペースにも限界がある。eriは、この山の中の服をばらして素材だけを使ったり、古着をリメイクして店に出したりしている。けれどそれも焼け石に水であることは間違いない。
ここまでは、消費者から出る不用品の話だ。これと同じくらい深刻な問題として、アパレル業界の在庫過多がある。
近年、映画『The True Cost』(邦題=ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~)や数々の報道によって、ファストファッションの醜い一面がクローズアップされるようになった。特に問題になっているのは開発途上国の下請け工場の労働環境の悪さや環境汚染、またそれによる健康被害などである。それも手伝ってか、いまファストファッションは登場以来、最大のスランプにさらされているようだ。昨年3月、スウェーデンのファストファッション大手H&Mは、在庫の規模が43億ドル相当に達したと発表した。日本でも、アパレル業界全体で増える生産量と市場規模のギャップは拡大し、在庫過多が問題になっている。こうした余剰の物資は、在庫処分業者を通じて市場に再び放出されるか、焼却処分される。
これだけ環境汚染が引き起こす気候変動が問題になるなか、ファッション業界が石油業界に次いで環境破壊の規模が大きい業界と言われる理由は、こういうことにある。自分をウキウキさせてくれるはずのファッションが、こういうことを考えると、急に悲しい存在に思えてこないだろうか。
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