「中絶反対」の共和党候補、恋人に中絶させた? “10月サプライズ”で米中間選挙に波紋

ハーシェル・ウォーカー氏|Miguel Martinez / Atlanta Journal-Constitution via AP

 そのスキャンダルはウォーカー氏の過去の女性関係から派生したものだ。これまで異なる4人の女性との間に4人の子供がいることが暴露されていたウォーカー氏だが、デイリービーストが10月3日、ウォーカー氏と関係を持っていた女性の一人が過去にウォーカー氏に妊娠中絶手術を求められ、同氏がその料金を支払っていたと報道。中絶クリニックのレシートやウォーカー氏から送られた中絶費用の小切手、手術後に同氏から送られたお見舞いカードまで公開した。そのような状況のなか、すでに成人しているウォーカー氏の別の息子も参戦し、ウォーカー氏が自分と母親に暴力をふるい、ほかの女性と関係を持っていたなどとTikTokで罵倒したことから、事態はさらなる混乱に陥った。

◆中絶報道に見られる「共和党の偽善」
 ここでの問題は、ウォーカー氏の当時のパートナーが中絶手術を受けたことではない。問題になっているのは、一方で「胎児の命を守りたい」と主張して女性の権利を否定しようとしながら、自分が必要なときは中絶手術を受けさせるウォーカー氏、そして議席を奪回したいばかりにそんな同氏への批判を避ける共和党の偽善である。ウォーカー氏は10月3日の報道が出た後、「この女性を知らない、デイリービーストを訴える」と息巻いたが、いまだに訴えていないということは女性の証言が事実であるからだろう。ニューヨーク・タイムズによると、ウォーカー氏はその後女性が再び妊娠すると2度目の中絶手術を求めたが、女性は拒否して同氏の子供を出産したという。また同記事によると、女性が中絶を告白したのは、自分に中絶を求めておきながら選挙キャンペーンで中絶禁止を主張するウォーカー氏の偽善的態度が原因だという。

 NBCニュースによると、ウォーカー氏はその後女性の存在、そしてその女性と1児をもうけたことを白状したものの、中絶手術に関しては初めて聞いたと言っている。ウォーカー氏や共和党陣営は、突然報道された「10月サプライズ」の火消しに躍起になっているが、毎日新しい事実が報道されて、日に日に嘘の深みにはまり込んで行っているようだ。ジョージア州の有権者がこの一件をどう裁くかは、中間選挙でどちらが当選するかの結果に現れるだろう。

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Text by 川島 実佳