プーチン退陣の可能性とその後のシナリオ 識者が予想

Mikhail Klimentyev, Sputnik, Kremlin Pool Photo via AP

◆クーデターか民衆蜂起か? 政権崩壊は突然に
 ラトガーズ大学の政治学者アレクサンダー・J・モティル教授も政治紙ヒルに寄稿しているが、こちらはプーチン退陣の可能性は高いとしている。平和的委譲ではなく、プーチン氏を裏切ったエリートによるクーデター、または民衆の蜂起がプーチン失脚のシナリオだと見ている。

 もっとも、政治誌ポリティコに寄稿したコロンビア大学の政治学者、ティモシー・フライ教授は、ロシアは指導者が自分の手に権力を集中させる典型的な個人主義独裁国家だと説明。政権を維持するため個人主義的独裁者は側近によるクーデターと大衆の反乱に警戒しており、打倒するのは簡単ではないとしている。

 フライ氏は、いまのところプーチン氏がすぐに失脚する気配はほとんどないとし、エリートの中から戦争反対の声はほとんどなく、大衆も戦争状態を現実として受け入れていると指摘する。しかし、西側の制裁と企業の撤退はロシア経済を悪化させ、経済的パフォーマンスと結びついている政府への支持を低下させる。また、戦争に負ければ独裁的支配者が権力を失うリスクも高まるとし、プーチン氏がいつ権力を失うかの正確な予測は困難だが、徐々に離反の連鎖が起き、その時は突然やってくるのではないかとしている。

◆国家崩壊、独裁継続も? 民主化の希望も残る
 モティル氏は、クーデター、民衆蜂起いずれの場合も、プーチン退陣によって政治が不安定になると、後継者の権力争いに発展する可能性があるとしている。さらに恐ろしいのは、プーチン氏が敵から逃れて大きな戦闘力を持った場合で、ロシアは内戦に突入し、崩壊する可能性が高いとしている。

 フライ氏は、個人主義的な政権は後継者に独裁のタネをまくのが常だと指摘。個人主義的な独裁国家の支配者交代は、暴力的になり別の独裁国家になる可能性がはるかに高くなると述べている。ただし、希望がまったくないわけではないと同氏は述べる。ロシアはほかの個人主義的独裁国家と比べまだ豊かであり、教育水準や政治的開放性も高い。また、人口の80%がロシア民族であるため、独裁政権崩壊後にさまざまな国を悩ませた民族・宗教的対立を回避できる可能性もある。これらのことから、プーチン後に民主化に向かうことが期待できるという。

 もっとも、民主化は政権交代の方法に影響され、クーデターよりも大衆の反乱のほうが可能性は高まるという。また、後継者の人格や経歴によって外交政策や危機対応は変わり、後継者がプーチン氏の側近になるか、側近以外になるのかによっても政治的開放の見通しは変わると同氏は指摘している。結局のところ、ロシアの真の政治改革には、プーチン氏排除以上のものが必要ということだ。

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Text by 山川 真智子