暴露本で露呈 トランプ政権末期のクーデター計画

アリゾナ州で開かれた集会で演説するトランプ前大統領(7月24日)|Ross D. Franklin / AP Photo

◆軍トップがクーデター阻止に奔走
 波乱に満ちたトランプ政権末期を追う同書の内容のなかでも、最も注目を受けたのはトランプ氏に対する米軍高官の警戒態勢である。同書について報道したNBCニュースによると、米陸軍のマーク・ミリー参謀総長は、2020年の大統領選でトランプ氏が敗北した後、軍を利用したクーデターを企てているのではないかと懸念し、ほかの軍高官とともに密かにトランプ氏の暴走を阻止する計画を立てていたという。実際、トランプ氏は選挙に敗北してから防衛省の人事を変え、自分の支持者を重要なポストに置くなど、クーデターの準備かと思われるような怪しい行動が目立っていた。

 11月の大統領選での敗北後、トランプ氏は負けを認めないばかりか、僅差で敗北した州で何度も裁判を起こしたり、何度も票集計を繰り返させたり、ツイッターをはじめとするソーシャルメディアで選挙がいかさまだったという主張を繰り返したりしていた。これらの言動が1月6日の連邦議会襲撃事件に繋がっていったことに疑いはないが、同事件発生は決して偶然ではない。トランプ氏とその支持者が大統領選敗北後、上述のような言動を毎日繰り返すことで支持者を心理的に奮い立たせ、クーデターを最終目的とした周到な計画を実行していたという場合も考えられる。

 ミリー参謀総長の対応はアメリカのニュースメディアで大々的に取り上げられたが、いまのところ本人はこの件についてコメントしていない。しかし、同書は政権関係者へのインタビューで構成されており、もし書かれていたことが真実でなければすでに反論が公表されているだろう。ちなみに同記事によると、トランプ氏は同書に書かれたミリー氏の言動に対し「たいへん馬鹿馬鹿しい。言っては悪いが、選挙が私にとっての『クーデター』だ。もし私がクーデターを起こすとしたら、マーク・ミリー将軍と一緒にすることはない」という妙なコメントを公表している。

『I Alone Can Fix It』は7月20日の発売後、すぐにニューヨーク・タイムズのベストセラーとなり、レビューも上々だ。その直後の7月27日には下院で、民主党議員を中心とした連邦議会襲撃事件の特別調査委員会が開始。調査が進んでいくにつれ、今後もトランプ氏の大統領選敗北から始まった政権混乱の様子と、議会襲撃の黒幕、そしてトランプ氏がどうしてそこまで権力にしがみつこうとしていたかなどについて、新事実が続々と出てくることが予想される。アメリカの政界はいままさに「事実は小説より奇なり」の状態なのである。

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Text by 川島 実佳