「トランプVS反トランプ」の大統領選から見えた米国の姿

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◆実態はトランプVS反トランプ
 また、今回の大統領選を見て筆者には一つのことが見えた。それは、トランプVS反トランプの選挙だ。バイデン陣営に注目してくると、バイデン氏のビジョンや政策に支持者たちが関心を寄せているというより、とりあえずトランプを倒す、トランプを再選させないことを何よりも目的にしていた。両者の討論会や支持者たちの集会をみても、そこで政策論争が真面目にされることはほぼなかったといえる。そういう意味で、バイデン支持者にとって、バイデン氏は「目的」ではなく、トランプ氏を倒すための「手段」だったと言えるだろう。バイデン支持者のなかには、どれほどバイデン氏の外交ビジョンや政策を真剣に考えていた人がいただろうか。もちろん、トランプ支持者にもそれは言えるわけだが。

◆超大国アメリカに回帰することはない
 アメリカファーストのトランプ大統領にバイデン氏が勝利したことで、米国が再び世界のリーダーの立場に戻ると期待する声も少なくない。バイデン氏は国際協調主義を掲げ、パリ協定やイラン核合意などへ戻ることも宣言しており、トランプ大統領と正反対の政策を進めるとの分析もある。しかし、共通点もある。それは、「超大国アメリカに戻ることはない」「外国の紛争にはできるだけ加担しない」「対中国では厳しい姿勢で構える」である。オバマ氏は大統領時、米国は世界の警察官であり続けないと表明しており、オバマ政権の継承を明言しているバイデン氏のスタンスもそれと変わらない。そして、バイデン氏は中国へ厳しい姿勢で臨むと宣言しており、トランプ政権からバイデン政権へ継承されるものも少なくない。

 今年の大統領選で、対外政策に注目が集まることはほぼなかった。注目されたのは国内事情であり、それだけいまの米国には精神的余裕がない。多くの市民にとって、対外政策などは二の次なのかもしれない。

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Text by 和田大樹