米大統領選、「レッド・ミラージュ」でバイデン氏逆転劇に

Carolyn Kaster / AP Photo

 11月3日、コロナ禍で実施された米大統領選は、現地5日午後になってもまだ勝者がわかっていない。いまも各州で開票・集計作業が行われているが、うち民主党と共和党支持が明確に分かれている州を除き、激戦州のペンシルバニア、ジョージア、ノースカロライナ、アリゾナの4州と隔離された土地柄集計作業が難しいアラスカ州、民主寄りと見られていたものの、トランプ氏が意外に善戦したネバダ州での開票結果に注目が集まっている。これらの州はもともとバイデン氏がほとんどの世論調査でリードしていたうえ、トランプ氏が選挙前から郵便投票を不正扱いしていたこともあり、このような結果になることはほぼ予想がついた。

 アメリカのメディアでトランプ氏の勝利を予想していたのは極右または共和党寄りのメディアのみ。アメリカで最も有名な選挙統計分析サイト『ファイブサーティーエイト(FiveThirtyEight)』によると、投票日時点でトランプ大統領再選の確率は10%と予想されており、トランプ氏本人と支持者以外、ほぼ誰もがバイデン氏の勝利を予想していたと言っても過言ではない。これは、バイデン氏が民主党の大統領候補として指名されてからいままで常に世論調査で10%前後のリードを保っていたことが大きな理由だ。しかし同時に、バイデン氏勝利に対してトランプ氏がどのような攻撃をするかどうかに懸念が高まっていたのである。

 しかし蓋を開けてみると、予想に反してトランプ氏が善戦したうえ、開票のタイミングにより激戦州でリードしたように見えたことや、まだ開票中なのに同氏が勝利宣言をしたこと、開票作業を止めるための訴訟を起こしたこと、偽の情報がソーシャルメディアで出回ったことなどから、開票・集計作業は通常通りに行われているにもかかわらず、トランプ氏支持者が不正ではないかと疑いの目を向ける結果となった。
 
◆共和党が有利に見える「レッド・ミラージュ」とは
 各メディアサイトで開票結果マップを見ればよくわかるが、アメリカでは共和党支持者が小さな町に住んでいることが多く、大都市やその郊外には民主党支持者が多い。その結果、当然民主党票は大都市に集まることになる。中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーとミシガン州デトロイト、東部ペンシルバニア州フィラデルフィアやピッツバーグ、南部ジョージア州アトランタなどはその典型だ。人数が多ければそれだけ開票・集計作業に時間がかかり報告が遅れることから、小さな町での集計結果が先に出て、共和党候補がリードしているように見えるのはアメリカの選挙ではごく普通のことだ。大都市の結果が先に出ればもちろん逆に見える。この現象は共和党が先にリードした場合は「レッド・ミラージュ(赤い幻)」、逆に民主党がリードした場合は「ブルー・ミラージュ(青い幻)と呼ばれており、NBCニュースなど各メディアでは選挙前にも注意を促していた。

 今回の大統領選では、激戦州で前述した大都市票と郵便投票の開票・集計作業に時間がかかったためまずトランプ氏がリードし、後から大都市と郵便投票の集計結果が加算されたことからバイデン氏が一気に得票を増やしたかのように見えているのだ。

Text by 川島 実佳