メイ英首相、信任投票で勝利 EU離脱問題で党内議員から不満

Stefan Rousseau / PA via AP

 イギリスのテリーザ・メイ首相は12月12日、自らの率いる保守党議員によるEU離脱問題の是非を問う不信任投票に勝利し、英国首相としての地位を揺るがす政局の危機を乗り越えた。

 しかし200票対117票という結果を考えれば、自らが党首を務める保守党内にもメイ氏のEU離脱政策に反発する議員はかなり多く、同氏の首相としての立場は、危うい状況が続いている。メイ氏はまた、今回の不信任投票にあたり、2022年に行われる次期総選挙への不出馬を表明しており、手痛い代償を支払う結果ともなった。その一方で、首相は議会の理解を得られるようEU離脱協定の変更を目指しており、イギリスのEU離脱問題についてはまだ解決の見通しが立っていない。

 メイ氏は「党内から支持を得ることができて嬉しい」と述べ、12日夜に行われた無記名投票では、「かなりの人数が」反対票を投じたことを認めた。

「長く辛い1日」と評した1日を終え、夜のダウニング街に姿を見せたメイ氏は「そのような意見があることも理解した」と明言した。

 メイ氏の立場が脅かされることとなったのは、EU離脱賛成派の保守党議員が、同氏のEU離脱政策に対する不満を徐々に募らせた結果だ。EU離脱派の多くは、経済面でEUとの緊密なつながりを維持するという妥協案を打ち出したメイ氏の離脱協定について、これでは彼らの望むEUとの決別を実現できないとしている。

 苦境に追い込まれているメイ首相については、保守党の反首相派が数週間に渡り不信任投票の実施を求めており、最終的に不信任案提出に必要な人数に達したため、投票が実現することとなった。

 今回の投票は、保守党議員の15%にあたる48人が不信任投票を求める書簡を提出したことから、開催が決定した。

 EU離脱案はほぼ否決される見通しだったが、メイ首相は12月10日、それを回避すべく採決を延期した。1月21日までには、議会採決を行うものとしているが、メイ氏としてはそれまでに自身の希望する譲歩をEUから勝ち取りたい意向だ。

 投票の結果が発表されると、庶民院の、壁に装飾が施された小さな一室に集まった議員からは、大きな歓声があがった。党の規則に基づき、今後1年間は、保守党から党首のメイ氏に対する不信任案が提出されることはない。

 保守党出身のクリス・グレイリング運輸大臣は、投票の結果を受け、メイ氏が「自身の率いる党から支持を得ている」ことが明らかになったと述べている。

 グレイリング氏はスカイ・ニュースに対し、「この結果は、メイ氏に今後も首相を務めて欲しい、EU離脱まで党を率いて欲しいという党の明確な意向だ」と語っている。

 しかしEU離脱支持派のマーク・フランソワ議員は、自身の政党の3分の1から反対票を突きつけられたメイ氏にとって、今回の結果は「衝撃的な」ものだと言う。

「私が彼女なら、全く喜べる状況ではない。彼女は自身が今すべきことをしっかり考えなければならないと思う」

 12日、投票を控えたメイ氏は、党首として、そして首相としての地位を守るため、「これまで得てきたものすべてを賭けて」戦うと宣言した。その日は終日、庶民院にとどまり、勝利に必要な数の議員を味方につけるべく、懸命な働きかけを行った。

 メイ氏はまた、浮動層を取り込むため、2022年に予定される次期総選挙の前に首相を退任する意向を示した。

 ロバート・バックラント法務次長によると、メイ氏は会合の場で議員らに対し、「2022年の総選挙で党首を務める意向はない」と話した。

 今回の投票に勝利したことで、メイ氏は一時的な猶予を与えられたが、3月29日に控えるイギリスのEU離脱に関する見通しは、不透明なままだ。

 EU離脱を目前に控える中で勃発した保守党内のいざこざについて、野党議員からは驚きと怒りの声があがっている。

 庶民院で行われた首相の質疑応答は、白熱したものとなり、スコットランド国民党のイアン・ブラックフォード党首は、「政府は茶番を演じているに過ぎず、保守党は混乱に陥り、首相は面目を失った」と語った。

 イギリス経済界の重鎮らは、政治の先行きが引き続き不透明となっていることに、激しい怒りを示している。

 イギリス商業会議所のアダム・マーシャル事務局長は、「経済界は首相が続投を決めたというニュースを受け、政治的な駆け引きが今後収束することを期待するだろう」と言う。

「イギリス議会は、企業らに至急、今後の見通しを説明し、混乱や無秩序を解消しないままEU離脱の日を迎えることがないよう、全力を挙げて取り組まなければならない」

 今回の投票を終え、メイ氏の政治家としての粘り強さや覚悟が改めて明確になった。18日にはEU首脳会議が開催され、そこで他の課題にも向き合うことになった。メイ氏はイギリス議会の支持を集めるため、EU離脱協定を変更しようと模索している。しかしEU各国の首脳陣は、法律により決定した内容を再度審議することはできず、彼らができる最大限のことは、内容を「明確にすること」だとしている。

 メイ氏は、議員らの「懸念を解消できるように、法的、政治的な物事をはっきりさせたい」と述べている。

 EU首脳陣からは、窮地に陥ったメイ氏に対し、同情の声もあがっている。しかしイギリスの政治的な混乱については、激しい怒りの声もある。

 欧州議会でイギリスのEU離脱問題を担当するヒー・フェルホフスタット氏は、次のようにツイートし、苛立ちを示した。「ヨーロッパをめぐる保守党内のごたごたで、EUとイギリスの関係性や、企業の繁栄、市民の権利が消耗されている」

 ロンドン市民の間には、四面楚歌となった首相に同情を示す意見もある。

 ロンドンのストリートマーケットでクリスマスカードとラッピングペーパーを売ってるアビー・ハンドブリッジ氏は、「まず、他の国に迷惑をかけているし、テリーザ・メイ氏は本当に辛いだろうと思う。彼女は皆から責められてぼろぼろだ」と言う。

「彼女には今後も首相として、事態を収束させてほしい」

By JILL LAWLESS, Associated Press
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP