「麻薬戦争」のメキシコ、大麻合法化法案を審議へ 「犯罪組織の暗躍許す」と反対派危惧

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◆税収をより凶悪な犯罪の対策に当てる
 メキシコの麻薬戦争によって命を落とした者は、2006年以来、約23万5000人で、行方不明者も4万人に上るという。サンチェスコルデロ氏は、法案を提出した理由を、この問題に対する現政権の軍事的介入と厳罰化が機能していないためだとした(米公共ラジオ局NPR)。

 メキシコでは、現在もアメリカの一部の州と同様、医療用大麻の使用は合法となっているが、新法案は、マリファナ(大麻)の栽培・販売・使用をほぼ全面的に解禁するという大胆なものだ。政府による許可制で従業員150人までの企業に商用の大麻の栽培とマリファナの販売を認め、個人にも年間20本の大麻の栽培と17オンス(約1440本分)のマリファナの生産を許す。禁煙ゾーンを除き公共の場所での使用も認める。食用大麻の生産は禁止する。

 メキシコの刑務所収監者の60%以上が、麻薬犯罪者で、その大半はマリファナの販売によって逮捕された者だという。MORENAの有力議員リカルド・モンレアル氏は、マリファナ合法化により犯罪行為と刑務所の人口が減少すると主張する。また、新法案はマリファナの販売に税金を課すとしており、同氏は犯罪対策に必要な財源を確保できるとも言う(NPR)。合法化によって、結果的に警察官と検察官をより重大な犯罪に集中させることができるというメリットも挙げられている(ロサンゼルス・タイムズ紙)。

                                                                                                                 

◆「ウルグアイやカナダとメキシコは違う」
 賛成派の主張だけを聞けばいい事ばかりのようだが、メキシコ国内で昨年行われた最新の世論調査では、過半数の56%が合法化に反対している。その主な理由は、若者にマリファナが蔓延して中毒者が増えることへの懸念だ。メキシコ政治に強い影響力を持つカトリック教会も反対派に名を連ねる。全国父母連合(PTA組織)のレオナルド・ガルシア氏も、「メキシコに必要なのは法の支配であり、犯罪を許すことではない」と反対を表明。「(合法化の)結末は、犯罪の減少ではない。これまで通り組織ギャングが暗躍するだけだ」とNPRの取材に答えている。

 ワシントン・ポスト紙のオピニオンは、先に合法化に踏み切ったウルグアイ、カナダとメキシコでは事情が異なると主張する。「ウルグアイとカナダは安全な国であり、マリファナを禁止していたことによる悪影響を表面的にしか経験していない。しかし、メキシコは麻薬戦争の震源地だ」と、ハードルの高さの違いを強調する。ちなみに、世界銀行の調べでは、10万人あたりの殺人率はウルグアイが7.69人、カナダが1.68人なのに対し、メキシコは25人となっている。同紙は、「(ウルグアイの首都)モンテビデオと(カナダの穀倉地帯)アルバータの農民は大麻を安全に栽培できる」が、メキシコの農民が合法的に栽培を始めれば、これまで違法大麻を牛耳ってきた麻薬カルテルの報復を受けるだろうとしている。

 法案の通過は賛否を保留しているロペスオブラドール新大統領の意向にも左右されるが、MORENAは「年内に大統領のデスクに法案が上がることを期待している」としている。連立与党内には、これまで合法化に反対している保守系の政党も含まれるため、国会でも激しい議論が交わされるのは必至だ。麻薬大国メキシコの動向は、世界のマリファナ合法化の流れに大きく影響するだろう。

Text by 内村 浩介