ユニバーサル・クレジット、ベーシックインカムより優秀? 英での運用では課題も

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 イギリスはこれまでの福祉手当をまとめ、一括で受給者に支払う「ユニバーサル・クレジット」の段階的導入を2010年に発表した。2017年8月時点で59万人が受給している。しかし申請から受給までの期間が長く、運営上のトラブルが多発していることなどから、多くの受給者の生活費が底を付くという事態になっている。

◆制度を簡素化、生活保護依存を正す効果も
 イギリスのユニバーサル・クレジットは、生産年齢の低所得者を対象とし、これまであった6つの給付と税額控除をまとめたものだ。働いていてもいなくても申請は可能で、旧制度では週16時間以上働くと手当を失うシステムだったが、新制度下では労働時間に制限はない。ただし収入が増えるにしたがい、給付は減額される。

 政府の狙いは制度の簡素化だ。給付の申請がシンプルになるようデザインされ、給付金も基本的に受給者の口座に直接振り込まれる。不正受給や支給ミスも減ると見られ、IT化などにより業務の効率化も期待されている。また、就労したほうが給付を受けるより利益になる仕組みで、これまでの給付依存からの脱却が見込める。制度を悪用した場合の罰則も強化されており、就労を促進する設計となっている。

◆ベーシックインカムより期待大? OECDは高評価
 社会保障給付のシステムでは、すべての国民に無条件で基本的な所得を給付する、ベーシックインカムが注目されてきた。各国で実験が行われきたが、そのひとつであるフィンランドの試験運用が今年末で終了し、延長されないことになったと報じられている。

 経済開発協力機構(OECD)のシンクタンクは、フィンランドでベーシックインカムを導入すれば、所得税をほぼ30%増やす必要があり、所得格差が増大し、貧困率が現在の11.4%から14.1%に上昇するとしている。対照的にユニバーサル・クレジットを導入すれば、貧困率は9.7%になり、給付システムにおける複雑さも軽減されるとし、イギリスのような制度を推奨している(BBC)。

◆支給まで1ヶ月以上 負債増加で生活費不足が深刻
 ところが、イギリスではユニバーサル・クレジットの受給者が増えるにつれ、様々な問題が出てきた。その一つが、申請から初回受給までの待ち時間が長いことだ。給付額は毎月受給者がいくら稼いだかによって決まるため、支払いは1ヶ月遅れることになる。行政側の作業時間も含め現在5週間待ちとなっているが、申請時に間違いなどがあれば、さらに待ち時間が長くなると言われている。支給までに生活費が足りない場合は前借りできる制度もあるが、その制度自体を知らない人も2017年時点ではいたという。

 さらに問題とされるのは、ユニバーサル・クレジットでは、以前に過払いされていた手当、前借分、滞納していた住民税や公営住宅の家賃などが、高い比率で差し引かれて支給されることだ。ハフポストUK版によれば、何千人もの人々が負債の支払い分として、支給を40%も減らされているという。もともと少ない給付額から負債分をバッサリ引かれれば生活費は足りなくなり、さらに借金を重ねてしまうという悪循環が起こっている。

◆フードバンクも大忙し。制度の改善は必至
 英最大のフードバンク・ネットワークTrussell Trustによれば、ユニバーサル・クレジットに移行して12ヶ月以上経過した地域では、フードバンクの利用は他地域の4倍だという。支給までの長い待ち時間や行政側のお粗末な運営体制が、人々の負債の増加、体調不良、家賃の滞納などを招き、無料の食料支援への需要が高まったと同団体は見ている(ガーディアン紙)。 

 BBCによれば、制度導入に費やした費用は当初予想の何倍にもなっており、要した時間も予想よりはるかに長いという。政府の支出を監督する英監査局は、ユニバーサル・クレジットは時間の尺度が曖昧で、管理、コントロール、運営のすべてにおいて問題があったという見解を示している。2022年までに700万世帯以上がユニバーサル・クレジットを受給する予定だというが、紆余曲折は続きそうだ。

Text by 山川 真智子