映画で再び脚光 「ペンタゴン・ペーパーズ」判決とは?

Niko Tavernise / 20th Century Fox via AP

 この映画のメインテーマは、スクープ記事を掲載したニューヨーク・タイムズに対する連邦裁判所の差し止め命令を受け、文書の公表に踏み切るワシントン・ポストの決断だ。しかし、1971年のニューヨーク・タイムズ対アメリカ合衆国裁判で、ペンタゴン・ペーパーズの公表は国家の安全を脅かすとするニクソン政権の主張を却下し、最高裁判所が6対3の判決を下した、憲法修正第1条(報道の自由)に基づく特徴的な判決にも、わずかながら注目が集まった。

 この判決は、政府を相手取った報道の戦いの勝利を意味し、半世紀近く経った今でも、報道の自由の歴史における重要かつ画期的な出来事だ。

「この判決は、(国家の安全など)政府の最重要利益であっても事実報道の抑圧を正当化することはできないと力強く再確認するもので、裁判所はこの判断を繰り返し引用しています」と、元最高裁判所職員でUCLAロースクール教授のユージン・ヴォロック氏は話す。「この判決はまた、裁判所は通常、言論を抑制する差し止め命令を出すことはできないことを明確に示しています」

                                                                                                                 

 アール・ウォーレン主席判事が1969年に辞任して以降、最高裁判所は保守的になりつつあったが、ペンタゴン・ペーパーズは最高裁判所が比較的リベラルな時期に公になった。ニクソン大統領が任命した後任のウォレン・バーガー主席判事は、ウォーレン・コートのリベラル傾向からの脱却を目論んでいた。そして、エイブ・フォータス陪席判事の辞任に伴い、ハリー・ブラックマン氏が後任に指名された。顕著なリベラルとなったブラックマン判事だが、当初は「ミネソタの双子」と言われるほど仲のよかった同郷のバーガー主席判事に同調していた。ヒューゴ・ブラック判事、ウィリアム・ブレナン判事、サーグッド・マーシャル判事、ウィリアム・O・ダグラス判事の4票を得られる確信があったと、ニューヨーク・タイムズの弁護人のひとりであったフロイド・アブラムス氏は話す。アブラムス氏と共同弁護人のアレクサンダー・ビッケル氏は、ポッター・スチュワート判事とバイロン・ホワイト判事を味方につけたいと考えていた。

「本件の口頭弁論が始まり、その4票はほぼ間違いなくニューヨーク・タイムズに入るだろうと私たちは十分自覚していました」と、AP通信へ宛てた最近のEメールでアブラムス氏は明かした。「(ですが、)私たちは実際、判決は五分五分で勝利は決して保証されていないと考えていました」

 ペンタゴン・ペーパーズは、1967年、国防総省の命を受け、アメリカのベトナム戦争への介入の経緯をまとめる目的で作成された。この戦争に幻滅していた執筆者のひとりダニエル・エルズバーグ氏は、この報告書は政府によって国民が長年騙されていたことを示すチャンスだと考えた。エルズバーグ氏は、後にペンタゴン・ペーパーズと呼ばれる文書をニューヨーク・タイムズに漏洩、1971年6月13日、記事の連載が開始された。ニクソン政権が連邦裁判所に記事の差し止めを請求したのを受け、ワシントン・ポストほか新聞各社は独自の記事を掲載した。6月26日、最高裁判所はニューヨーク・タイムズ対政府訴訟の審理に同意した。

 アブラムス氏によると、鍵となったのはスチュワート判事の質問に対するビッケル氏の回答だった。「この封印された記録を本法廷のメンバーが目を通したときに、19歳で徴兵抽選の番号が小さかったというだけの理由で100人の若者に死刑判決が言い渡されていたのだと、我々全員を確実に納得させるだけの内容が含まれていたと仮定しましょう。私たちはどうするべきなのでしょう」という問いに対して、ビッケル氏の回答は「物議を醸す」ものだったが、「本質的な」ものだったとアブラムス氏は話す。ビッケル氏は、「人類に対する私の思いは、憲法修正第1条への抽象的な忠誠に勝る(だろう)」とその問いに答えた。兵士たちが本当に危険な状態にあると確信したなら、ニューヨーク・タイムズは責任ある行動を取ると最高裁判所に示すことが重要だったとアブラムス氏は話す。

 6月30日、判決が言い渡された。賛成意見陳述の最後に、「政府の秘密を明らかにし国民に知らせることができるよう、報道は保護される。自由で制限を受けない報道だけが政府の欺瞞を効果的に暴くことができる。そして、報道の自由の責任の中で最優先されるのは、いかなる政府機関にも国民を欺いて海外の熱病、銃弾、爆弾で死ぬために遠方へ送ることをさせない義務だ」と、この3カ月後に死去したブラック判事は主張した。反対意見陳述で、本件は性急に議論されており、言論の自由の問題に偏りすぎている、とブラックマン判事は主張した。

「憲法修正第1条は結局、憲法の一部にすぎないのです」とアブラムス氏はEメールに記している。「憲法第2条は、行政府に外交の遂行に関する大きな権限を与え、国家の安全に対する責任を課しています。憲法の各規定に重要な意味があるので、ほかの規定を軽視してまで憲法修正第1条に無制限の絶対的な価値を与えるという主張に私は同意できません」

 最高裁判所は全体的に1971年当時より保守的なので、現在ならペンタゴン・ペーパーズ訴訟にどのような判決が下されるかについては研究者の意見が分かれている。

 法廷は、「基本的に憲法修正第1条を一応は保護している」が、このような訴訟は珍しいため、「憲法修正第1条対国家の安全」という議論がどう決着するか分からないとヴォロック氏は話す。サミュエル・アリート判事は政府を支持する可能性が最も高いが、彼には憲法修正第1条が優先されるという確信があるとアブラムス氏は考えている。憲法修正第1条研究者のロナルド・K・L・コリンズ氏は、現在の法廷がどのような判決を下すかは分からないという。政府は、「その支援が完全に平和的で合法的な活動に関する指導や助言で構成されているとしても、特定のテロ集団に対するあらゆる形態の支援を禁止することができるものとする」との判決が下された、2010年のホルダー司法長官対人道法訴訟に言及し、現在の判事たちは強固な自由主義者だが、すべての訴訟においてその主義を貫くわけではないと話す。

 ペンタゴン・ペーパーズのような訴訟の場合、「大統領権限を抑制」する判事が少なくとも5人はいるだろうとコリンズ氏は考えている。

「しかし、1971年当時のニューヨーク・タイムズにとって有利だったのは、新聞各社がペンタゴン・ペーパーズについて報じていたため、事前抑制が実質的に無意味だったことです」と、ワシントン大学ロースクールでハロルド・S・シェフェルマンを研究しているコリンズ氏は話す。「現在の状況で一紙だけだったら、さらに難しい訴訟になるでしょう」

編注:ワシントン・ポスト紙の記者たちの奮闘を描いた映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』は3月30日に公開。

By HILLEL ITALIE, AP National Writer
Translated by Naoko Nozawa

Text by AP

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