子供のいない女性は不完全なのか……女性政治家が繰り返し受ける「痛みを伴う尋問」

メイ首相

 今月11日にイギリスのラジオ番組に生出演したメイ首相は、子供がいないことについて質問され、「子供ができないとわかって悲しかった」と赤裸々に胸の内を告白した。しかし一方で、「なぜ女性政治家ばかりがこのような質問を受けることになるのか?」と反発する声も上がっている。

◆「子供なし」を何度も取り沙汰されるメイ首相
 メイ首相が出演したのは、イギリスで最も歴史のあるラジオ局LBCで放送された『LBCリーダーズ・ライブ』だ。ラジオ・パーソナリティのニック・フェラーリ氏が司会を務め、リスナーから直接電話でメイ首相に質問できる内容だった。

 番組の冒頭でフェラーリ氏は、「子供がいないことでどんな影響がありますか? もし子供がいるテリーザ・メイだったら、(今のメイ氏とは)違う女性になっていたと思いますか?」と、質問した。というのもこの数日前、メイ首相が夫のフィリップ氏とBBCの番組に出演し、国会議員として初出馬した若かりし頃に「赤ちゃんができたため議員に選出されたら大変だ」と新聞に書かれ、「偽ニュース」を体験したことがある、と話したからだった。メイ首相に子供がいたことはない。

 フェラーリ氏の質問を受けてメイ首相は、「どうなっていたかを答えるのは不可能」と前置きした上で、「私たち夫婦には子供ができないとわかって、悲しかった」と答えた。「でもこの状況にあるのは私たち夫婦だけじゃない」と話し、「くじけずに前に進まなきゃ。甥っ子や姪っ子もいるし」と気丈に答えた。

 実はメイ首相に子供がいないことに全国的な注目が集まるのは、今回が初めてではない。というのも昨年7月、キャメロン首相の辞任を受けて、後任を決める保守党内での決選投票前に、もう1人の候補者だったアンドレア・レッドソム氏がタイムズ紙とのインタビューで、「母親である自分の方が(子供がいないメイ氏より)首相に適任」といった旨の発言をし、反発を買って謝罪に追い込まれ党首選を辞退したことがあったのだ。

◆「普通」って何だろう
 今回のインタビューを受けガーディアン紙は、ジャーナリストのアフア・ハーシュ氏による「メイ首相はなぜ子供がいないことを質問されなければならなかったのか」という意見記事を掲載した。記事でハーシュ氏は、スコットランド首相のニコラ・スタージョン氏が昨年9月に、サンデー・タイムズとのインタビューで流産の経験を語った事に触れた。サンデー・タイムズ紙はこの記事の中に、「子供のいない政治家」としてドイツ首相のアンゲラ・メルケル氏やスコットランド保守党のルース・デイビッドソン氏、そしてメイ氏など、女性政治家ばかり6人の写真を並べたのだ。

 ハーシュ氏は、政治家の「家族」としての経験が政治に無関係なわけではないと認めつつ、だからと言って、母親ではない政治家がその点を自身の政治活動の一部としなければならないことに疑問を呈した。今回のメイ首相とは別の例として、2016年7月の労働党党首選に立候補していたオーウェン・スミス氏のスカイニュースとのインタビューを挙げた。スミス氏は「妻と子供3人がいる自分は『普通』な人間だ」と、同性愛者で子供のいないライバル候補者アンジェラ・イーグル氏をあてこするような発言をしたのだ。

 ハーシュ氏はさらに、「Childlessness(子供がいない)」という言葉は、子供のいない女性を不完全とみなす軽蔑語だと主張しつつ、ただしここで一番問題なのは、「普通」という概念だと指摘した。「普通の人」と「そうでない人」が存在するという考えを持ち続ける以上、「普通」だと主張する政治家が存在する一方、女性政治家が今回のメイ首相のような「痛みを伴う尋問」を受けなければならなくなる、と結んでいる。当然ながら、女性政治家に限らず、世間一般に「普通」とされるものからは外れる政治家すべてに当てはまるだろう。もっと言えば、当然「政治家」に限らない。

 オーストラリアではあるが時をほぼ同じくして、「子供のいない夫婦」が2023年までに最も一般的な家族形態になる見込みであるとの国勢調査の結果が明らかになっている。メルボルン大学の社会学者リア・ルパナー氏がオーストラリアのABCに語った話によるとこの傾向は世界的なもので、特に韓国や日本など、多くの国で見られると指摘している。

「子供がいない夫婦」が当たり前になる時がまもなく訪れるなか、「普通」とは何かを考え直さなければならなくなる時もまた、まもなく訪れるだろう。

Text by 松丸 さとみ