“東京五輪に新たな恥” 舛添知事辞職を伝えた海外主要メディア、2人目の辞任に着目

 政治資金の私的流用問題で批判を受けてきた舛添要一東京都知事の辞職が15日、事実上決まった。このニュースへの国際的な関心は高く、主要海外メディアも大きく取り上げている。海外報道で目立つのは、「東京五輪がさらに後退」「五輪に恥の上塗り」といった、2020東京五輪に絡めた論調だ。舛添氏の個人的な資質や政治的なモラルの問題に着目する国内報道に対し、海外メディアは誘致決定後2人目の開催都市の知事の辞職だという点に着目。それに加え、スタジアム建設問題、ロゴ盗作問題、誘致に絡む裏金問題といった東京五輪を巡る一連の不祥事の延長線上で語られる傾向が目立つ。また、後任候補に国内報道では見られない名前も挙がっている。

◆「スキャンダルまみれの五輪」
 舛添氏は15日、一連のスキャンダルの責任を取りたいと21日付での辞職願を提出。これを都議会が全会一致で同意した。一時は今夏のリオ五輪と都知事選が重なるのは良くないとして、夏前の辞職を拒んでいたが、世論や議会の圧力に抗しきれなかった格好だ。2020東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長は「開催都市の知事がこのタイミングで代わることは、極めて残念」とコメント。一方、国際オリンピック委員会(IOC)は「準備は順調」「次の知事と協力する」と、舛添氏の辞職は五輪開催に影響しないとする声明を発表している。

 英BBCは、前職の猪瀬直樹氏に続く五輪誘致決定後2人目の東京都知事辞職であることを強調。既にスキャンダルや予算オーバーなどの問題が続出している東京五輪に追い打ちをかける不祥事だと報じている。ロイターは「東京都知事が辞職の声を浴び、オリンピックの恥が拡大」という見出しの記事を配信。「しかし、タイミングがデリケートだ。(中略)リオ五輪で知事代行が五輪旗を引き継ぐという恥を受け入れなければならない」と書いている。また、BBC、ロイター共に、7月の参院選への影響も指摘。舛添氏を推した与党に不利な材料となると見ている。

 米ワシントン・ポスト紙も、リオ五輪を2ヶ月後に控えた舛添氏の辞職は「さらなるオリンピックの後退」だと記す。同氏は、語学堪能な舛添氏は五輪には最適な知事だったと辞職を惜しむ組織委員の声を紹介。さらに、森喜朗会長の「極めて残念だ。次の知事に期待したい」というコメントも取り上げている。とはいえ、政治資金の私的流用を擁護する論調ではなく、東京五輪にまたまたミソをつけるスキャンダルが起きたという切り口の記事だ。ドイツメディアのドイチェ・ヴェレも、猪瀬氏の辞職以降、ロゴ盗作問題や裏金疑惑といった問題続く東京大会は、「スキャンダルにまみれたオリンピック」だとしている。

◆後任に女性活動家を推す声
 人気アイドルグループ嵐の櫻井翔さんの父・櫻井俊総務事務次官、蓮舫民進党代表代行、東国原英夫前宮崎県知事、橋下徹前大阪市長、石原慎太郎元都知事の長男・石原伸晃経済再生担当相、小池百合子元防衛相、萩生田光一官房副長官――。これらの名前が後任候補として挙がる中、日本在住の経済ジャーナリスト、ウィリアム・ペセック氏は、投資情報誌「バロンズ・アジア」で「ボヴリース里奈」という国内メディアではあまり聞き慣れない名前を推している。

 ボヴリース里奈さんは、フランス人の元夫の姓を名乗る42歳の日本人女性起業家。もともとはファッション業界のキャリアウーマンで、2009年に当時勤務していたプラダ・ジャパンから「髪型」や「容姿」といったことでセクハラを受け、最終的に解雇されたとして訴訟を起こしたことで知られている。結果は敗訴に終わり、プラダ側はボヴリースさんを名誉毀損で逆提訴している。現在、ボヴリースさんはインターナショナル・スクールの運営や女性の権利拡大を目指す活動を日米で展開している。

 ペセック氏は、ボヴリースさんの訴えを退けた際に、担当女性裁判官が出した「セクハラと性差別はあったが、ファッション業界において違法とは思えない。女性で高報酬であればセクハラによる精神的な苦痛にも耐えるべきだ」という判決理由を、日本の労働現場の男性上位の象徴として紹介。小泉政権時代から現在のアベノミクスまで、日本の政治が繰り返し訴えて来た「女性が活躍できる社会の実現」は、世迷い言に終わっていると喝破する。ペセック氏はその上で、「(今の日本の)賃金は低く、収入格差が拡大しているが、男性たちには解決策がない。これが日本が絶対に変わらない主な理由だ」といったボヴリースさんの言葉を取り上げ、東京から日本を変えるのは彼女しかいないとばかりに、ボヴリースさんを熱烈にプッシュする。

 とはいえ、今のところ本人が出馬の意向を示しているわけではなく、ペセック氏も有権者の多くは彼女の政治経験のなさを問題にするだろうとも述べている。いずれにせよ、これだけスキャンダルが続けば、後任にクリーンでフレシュなイメージの初の女性都知事を押す声が出てくるのは自然な流れと言えるかもしれない。

Text by 内村 浩介