“和食は芸術だから”“衛生面でプラス” 日本政府の和食シェフ認定制度、現地は好意的?

 このところ、日本のバラエティ番組でも取り上げられ話題となっている“海外における和食の乱れ”。寿司やうどんにマヨネーズやクリームチーズがトッピングされ、さらにはネオンカラーに着色されたものが“和食”として現地の人々に提供されていることに衝撃を受けた日本人も多い。

 和食は、2013年にUNESCOの無形文化遺産に登録された。日本が世界に誇る和食が、海外で見るも無残な姿になっている。そのような現状を危惧した日本政府が、海外で和食レストランを運営する外国人シェフ向けに“認定プログラム”を発足しようとしている。

 同プログラムでは、和食を学びたい外国人向けに、生魚のさばき方、シャリの握り方、正しい寿司の出し方などを教える。数日間の超短期プログラムから数年間かけて本格的に和食を学べる長期プログラムまで、目的別に幅広い種類のコースを検討中だ。

 海外で日本食レストランを選ぶ際の指標になるため、消費者側にとっても役に立つ制度だとされている。海外メディアでも、“伝統”と“食の安全”の両方の見地から、同プログラムに対して好意的な意見が目立つ。

◆「さすがはグルメ国」和食は総合芸術だ
 英紙テレグラフは1月24日の記事(電子版)の中で、「日本は、ミシュランの星付きレストランの数が世界最多の国。そのため、とりわけ食べ物(とくに和食)に厳しい国として有名だ」と、日本人の国民性を認定プログラム導入の背景として挙げた。

 また、この認定制度は「任意であって強制的ではないため、海外のレストランやシェフ達からはおおむね好意的に受け止められている」とし、あくまで“任意”である限りは好意的な姿勢を示した。

 さらに、イギリス在住の日本人シェフへのインタビューを交えながら、食材の扱い方から味付け、客のもてなし方までの総合芸術としての和食の特徴を解説。本来の和食がもつ繊細な魅力をアピールしていた。

◆衛生面でのメリットも大きいという評価
 米ニュースサイト『Vice』の食をテーマにしたチャンネルMUNCHIESはさらに好意的。2月3日の記事では、「寿司は単なる料理ではなくアートの一種である」と定義。また、この認定プログラムは伝統を守るためだけでなく、衛生面でも効果的だと主張した。和食は生魚を扱うことが多いため、正しい調理法を学習することで食中毒を防げるという。衛生面の効果についてはテレグラフも触れているが、Munchiesの場合は自国の食品衛生に対する姿勢を痛烈に批判しながら、やや過剰にも思えるほど日本の伝統的な方法を持ち上げている。

 ラジオ番組Japan Eats!のホストでフード・ライターのカタヤマ・アキコ氏の「(調理道具を)こまめに酢で拭き取ったり洗ったりする伝統的な方法を実践してきた日本では、寿司づくりの長い歴史の中でほとんど食中毒を起こしたことがありません」というコメントを掲載するとともに、アメリカ食品当局による表面的な衛生対策を「ill-fated(失敗する運命にある)」「ナンセンス」などと切り捨てた。

◆なぜ和食だけ特別扱いするのかという批判も
 一方、イギリスBBCはやや批判的なスタンスだ。1月19日の記事では、同認定プログラムに対する複数のコメントを紹介。「サンドイッチはすでにイギリス人のコントロール外だし、イタリア人にとってのパスタだって同じだ。そんなものだよ」という冷めた意見も。また、「レストランはパトロン(客)の好みに合わせて料理を提供するだけ」というアメリカ人読者のコメントも併せて掲載し、「認定プログラムではそのような現状を変えられないだろう」という結論で記事を締めくくった。

 日本国内のレストランでも、フランス料理や中華料理など海外の伝統的な料理が和風にアレンジされたものが提供され、人気を博していることが多い。そのため、BBCに掲載された批判的なコメントにも納得できる点はある。

 しかし、料理以外の何にしてもそうだが、基本をマスターしてこそ優れたアレンジができるのではないだろうか。各国の和食シェフは、ぜひともまず“伝統的な和食の基本”を習得してから、自国文化とのハーモニーを目指していただきたい。

Text by 月野恭子