世界遺産:“強制労働は韓国人だけではない”米研究者、連合軍捕虜に言及

 ユネスコの世界遺産委員会(WHC)は、5日、「明治日本の産業革命遺産」を、世界文化遺産として登録することを決定した。1940年代に、一部の施設で多くの韓国人が労働を強いられていたとして、登録阻止に動いていた韓国だったが、6月下旬の日韓外相会談で、一転、登録協力を表明。しかしその後、「強制労働」の表現方法をめぐり折り合いがつかず、登録審査直前になっても合意が得られない異常事態となっていた。

◆争点は強制労働をめぐる表現
 朝鮮日報は、「『強制労働』という言葉を入れるかどうかは韓日外交戦の争点だった」と述べ、韓国政府の基本姿勢が、「日本の植民地支配自体が国際法に違反したまま行われたため、その下で行われた動員は強制労働だ」というものだったと説明した。

 これに対し日本は、「労働環境が過酷だったと言っても、労働の対価を支払い、日本人とまったく同じ待遇だったので、強制労働と呼ぶことはできない」と主張(朝鮮日報)。「日本側は『強制労働』という表現が入ると、後に請求権問題の新たな口実になる可能性があると考え、韓国側に修正を要求し続けた」、というのが、同紙の分析するところだ。

◆韓国は実利に満足
 結局、ドイツのボンで開かれたWHCの5日夜の審議で、日本政府の代表が、「韓国人などが自分の意思に反して動員され、強制的に労働させられた」という内容に言及。さらに、「犠牲者を追悼するためにインフォメーションセンターの設置などの措置を取る方針」を明らかにした(ハンギョレ)。

 こうした内容はWHCの「登録決定文」には盛り込まれなかったが、注釈に「世界遺産委員会が日本の発言に注目する」という内容を付記することになったため、韓国が「日本政府が強制動員問題を事実上認める発言を引き出す『実利』を得た」とハンギョレは指摘。その他の韓国メディアも、成果を勝ち取ったと評価している。

◆日本は歴史を忘れようとしているのか?
 「産業革命遺産」登録に関しては、少数ながら欧米からも懸念の声が出ていた。慰安婦問題などで、安倍政権の歴史認識をたびたび批判している、米非営利研究団体「アジア・ポリシー・ポイント」のミンディ・コトラー所長は、世界遺産登録決定前に、ディプロマット誌に登録に反対する記事を寄稿していた。

 コトラー氏は、過去のプライドを取り戻すために、歴史の一部を語らないという安倍政権の方針を批判。さらに、観光振興に期待をかける「産業革命遺産」の候補地の多くが、安倍首相、麻生財務大臣、林農水相の地元にあると指摘し、麻生氏や林氏のファミリー企業である、麻生グループや宇部興産を含め、当時の日本の大企業が、第二次大戦中に連合軍の戦争捕虜(POW)に奴隷労働を強いていたと述べている。また、候補地となっている北九州、長崎の港は、3万5000人のPOWが入国した場所でもあると指摘している。

 そもそも日本における奴隷労働は、19世紀の明治時代から行われていたとコトラー氏は指摘。1930年代までは、服役囚、農地改革で生まれた土地を持たない農民、放浪者、女性が炭鉱労働に従事させられ、中国人、韓国人も炭鉱、工場、港湾での重要な労働力となっていたと述べる。そして世界遺産登録に当たっては、そのような日本の産業化における事実がないがしろにされていると主張する。

 同氏は、日本が伝えようとする物語は、ユネスコの判定基準である「普遍的価値と意義」に見合わないと指摘。「産業革命遺産」は日本の産業化全体の歴史を省略したもので、ユネスコがそれを受け入れることは、その憲章と、大日本帝国のために奴隷となった多くの人々の記憶にとって害となる、と述べている。

Text by 山川 真智子