朝日の池上彰さんコラム掲載拒否騒動、国内外の新聞も報道 産経は社説で批判

 朝日新聞が、ジャーナリスト・池上彰さんの自社に批判的なコラムの掲載を一旦拒否した後、4日になって一転掲載した問題は、国内外の同業他社にも大きな衝撃を与えたようだ。国内全国紙はコラムの掲載前後に一斉にこの問題を取り上げた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)、韓国の朝鮮日報も騒動の経過を詳しく報じている。

【朝日記者も自社批判に参加】
 問題となったのは、毎月掲載される新聞批評コラム『池上彰の新聞ななめ読み』の最新回だ。「慰安婦報道検証 訂正、遅きに失したのでは」と題し、朝日が8月5、6日朝刊で、いわゆる「従軍慰安婦」問題に関する自社の報道の一部に誤りがあったことを認めた件と、その後の謝罪なき対応を批判した内容だ。

 このコラムは8月29日の朝刊に掲載される予定だったが、朝日は「内容に問題がある」として掲載を拒否。これを受けて、池上さんは連載そのものの中止を申し入れた。池上さんはこの件について、「今回に限って『掲載できない』と言われ、信頼関係が崩れると考えた」とコメントしていた。

 これを受け、SNSを中心に朝日への批判が続出。朝日の一部記者も実名で、Twitterを通じて自社の批判に加わった。その後、池上さんのコラムは、4日の紙面に一転して掲載された。

【各社取材に詳細な理由は答えず】
 コラムが掲載された紙面には、池上さんの「過ちを認め、謝罪する。コラムで私が主張したことを、今回に関しては朝日新聞が実行されたと考え、掲載を認めることにしました」というコメントとともに、「社内での検討や池上さんとのやり取りの結果、掲載することが適切だと判断しました。池上さんや読者の皆様にご迷惑をおかけしたことをおわびします」という朝日側のおわびの文章が掲載された。

 WSJが掲載に至った理由を朝日に尋ねたところ、この文面と全く同じ内容がFAXで送られてきたという。自社の記者たちのTwitterのつぶやきについては、「我が社の記者がTwitterを通じて個人的な意見を表明していることは認識しており、それを許しています。彼らは、ツイーティング・レポーターとして登録されています」との回答をWSJに寄せた。読売新聞など国内メディアの取材に対しても同様の対応だったようだ。

 WSJは、騒動の一連の流れを解説した記事の中で、騒動をめぐる3人の朝日記者と作家の松井計氏のツイートを原文と英訳で紹介している。そのうち以下の2つは掲載決定後のツイートだ。

<(前略)現場の記者は今後、「自社の主張に合わない意見は載せないんでしょう?」という疑問にさらされ、向き合い続けることになる。>=藤えりか記者

<私は朝日はえらいと思うよ。いっぺん、載せないと決めた池上原稿を載せることにしたわけで、これはとてつもなく不格好なことなんだ。(中略)これはなかなか出来ない事だと思うよ。私は、高く評価したいね。>=松井計氏

【朝鮮日報も報じる】
 朝鮮日報は、騒動を報じた記事の中で、池上氏がコラムで「朝日の記事が間違っていたからといって『慰安婦』と呼ばれた女性たちがいたことは事実です。これを今後も報道することは大事なことです」「事実の前で謙虚になるべきです。過ちは潔く認め、謝罪する。これは国と国との関係であっても、新聞記者のモラルとしても、同じことではないでしょうか」と書いたことを強調している。その他の部分では、経過を淡々と記すに留めている。

 産経新聞は、「まず、おわびすべき相手は、誰だったのだろう。虚偽の吉田証言などで長く尊厳を傷つけられ続けた、日本と、すべての国民だったはずではないのか」と、朝日の4日の紙面では今回の騒動に関する池上さんと読者への「おわび」に留まったことを社説で批判する。

 読売新聞は「池上さんのコラムを読んでも、どこが問題で掲載を見合わせたのかわからない。慰安婦問題の特集記事を批判する内容だったので、過剰に反応したのだろうが、なぜ、いったん掲載を見送ったコラムを載せることにしたのか、読者の知る権利に答えていない」という川村二郎・元朝日新聞編集委員のコメントを掲載。毎日新聞では、ジャーナリストの津田大介さんが朝日の現場記者がTwitterで自社批判を展開したことについて、「保身としか受け止められず、現場記者の反発を招いたのではないか」とコメントしている。

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Text by NewSphere 編集部