ゾウはそれぞれ名前を持ち、お互い呼び合っている 研究で判明

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 イルカやオウムのように、お互いを真似て互いに呼び合う動物はいるが、ヒトと同じように名前をつけて呼び合う動物はこれまでいないと考えられていた。ところが、ヒトと同じようなコミュニケーション方法を取る動物がいることが国際的な研究でわかった。意外にも、野生のアフリカゾウだが、名前を呼び合うらしい。

◆アフリカゾウ 人間と同じコミュニケーション能力保持か
 野生のアフリカゾウは、人間のように互いを名前で呼び合っている可能性があることが研究でわかった。

 イギリスの科学誌ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューションに10日に発表された研究結果によると、アフリカゾウはこれまで人間以外の動物では知られていなかった種類のコミュニケーションを行っているという。

 イルカは呼びかけたいイルカの特徴的な口笛を真似て互いを呼び合うことが知られており、オウムも同様の方法で互いを呼び合うことがわかっている。

 だが、ケニアのアフリカゾウは、模倣をすることなく、同種のほかのゾウに呼びかけるために、それぞれの名前に相当する鳴き声を学習し、認識し、使用している可能性があるという。

 ゾウの鳴き声は「ランブル」と呼ばれる低周波の轟音で、3種類ある。遠くにいるゾウや視界の外にいるゾウを呼ぶときに使われるコンタクト・ランブル。ほかのゾウが触れられる距離にいるときに使われるグリーティング・ランブル。思春期または大人のメスゾウが、世話をしている子ゾウに対して使うケアギバー・ランブルがある。

◆小ゾウに名前を覚えさせることも
 国際的な研究チームは、1986年から2022年の間にアンボセリ国立公園、サンブル国立保護区、バッファロースプリングス国立保護区で野生のメスゾウと子ゾウの群れが発した469の鳴き声を、機械学習モデルを使って分析した。

 分析結果から、ゾウが鳴き声で名前を呼ぶ場合は、長距離で、成人ゾウが若いゾウに話しかける場合が多かった。

 研究者は、成人のメスゾウが子ゾウに名前を頻繁に使うのは、子ゾウを慰めるためか、名前を覚えさせるためである可能性を示唆した。

 また、成人ゾウは子ゾウよりも名前を使う傾向が強いということは、この特殊な能力を身につけるのに何年もかかることを示唆しているという。

 分析結果を確認するため、17頭のゾウにさまざまなゾウを指すとみられる音を聞かせ、どう反応するかを実験した。その結果、個々のゾウは、自分の名前が録音された音声に対して、耳をパタパタさせたり、体幹を持ち上げたりして、より精力的に反応した。ほかのゾウに向けられた発声を完全に無視することもあった。

 研究の筆頭著者でコロラド州立大学の行動生態学者であるマイケル・パルド氏は、分析結果から「ゾウが個体ごとに特定の発声をするだけでなく、自分に向けられた呼びかけを認識し、それに反応する一方、ほかのゾウに向けられた呼びかけを無視していると考えられる」と述べる。また「自分宛ての呼びかけかどうかを判断できることを示唆している」とも述べる。(AFP

◆言語の進化を紐解く可能性も示唆
 サイエンティフィック・アメリカンによると、サバンナゾウのメスは、多くの個体とくっついたり離れたりするという特色を持つ「離合集散」社会で生活しているため、鳴き声の音域が重要になる。

 ある鳴き声は遠くにいる個体の注意を引くために使われ、一方、近距離の鳴き声は社会的結びつきを強めるために使われる可能性がある。研究者らは、このことは、人間が自分の名前を他者が覚えている場合に、より積極的で協力的な反応を示すのと似ていると指摘する。

 また、複雑な社会構造を持つ動物や、いったん別れてから再び集まることの多い家族グループほど、個別の名前を使う傾向が強いのではないかと考えている。
 
 パルド氏によれば、ほとんどの哺乳類は、新しい音を出すことを学習する能力はない。ヒトやイルカやゾウは、その種の個体に対して名前のようなもので呼びかける。「ほかの個体に名前をつける必要性は、言語の進化に関係しているのかもしれない」と述べる。(CNN

Text by 中沢弘子