南アフリカの通学問題 長く危険な道を歩く子供たち

Mogomotsi Magome / AP Photo

 平日の朝、ルヤンダ・ハラリさん(14)は夜明け前に起床する。4人の兄弟と両親が起きる前に、火を起こして水を沸かすためのまきや牛のふんを集める。

 南アフリカのクワズール・ナタール州ストラットフォードの小さな村に住むンランゴスィ家では、一日のなかでも朝が一番忙しい。ルヤンダさんは家事を終えると、10キロメートル先にある学校を目指して歩き始める。

 スクールバスはない。長くほこりっぽい道が続くその道中では、窃盗犯や悪い人間がルヤンダさんに近寄ってくる可能性もある。

 国が民主化を遂げておよそ30年になる南アフリカでは、中心部から遠く離れ貧困にあえぐ農村地域に住む子供たち数万人が、ルヤンダさんのように、最寄の公立学校への長い道のりを歩いて通学することを強いられている。

 この過酷な状況から、教育を受ける機会を子供たちが平等に得られていない現状が明るみになった。政府が資金を投じて十分な通学手段を保障しないなか、計り知れないほどの危険がさらに高まっている。

 女子生徒は暴行を受ける脅威にさらされ、窃盗事件が横行している。世界銀行が「世界で最も不平等」と評するこの国に広がる格差は、こうした状況の下で解消されぬまま連鎖的に生み出されてきたと、保護者や地域の指導者、活動家は指摘する。

 クワズール・ナタール州では20万人以上の子供が、ルヤンダさんのように通学のために3キロメートル以上歩くことを強いられている。運動家や活動家は当局に対し、このような子供たちに移動手段を提供するよう強く訴えている。

 シリル・ラマポーザ大統領による政策では、通学距離が3キロメートルを超える生徒に対して、当局が交通手段を提供することを定めている。しかし、貧困状態が深刻化し、人口5600万人のうち25%以上が失業中である現状において、スクールバスの優先度は低い。

 心理学者のメリンダ・デュトイ氏は、通学のための交通手段の欠如は、南アフリカの社会経済的な現実と、そこに内在する不平等を示すものだと指摘する。都市部に居住する余裕のない人は、今後も基本的なサービスを享受することはできないままだろう。

 アムネスティ・インターナショナルが2020年に発表した報告書によると、南アフリカの子供たちが得る経験は「今でも、出生地や経済的状況、肌の色に大きく左右される」という。

 さらに、南アフリカの教育システムには「アパルトヘイト時代の爪痕に深く根付くあからさまな不平等と慢性的な学業不振が居座っているものの、政府は問題解決に向けて効果的な取り組みを行っていない」と記している。

 クワズール・ナタール州では、州の30%以上を占める1240万人が失業中であり生活保護を受けている。ひと月およそ19ドルを交通機関に支払うか、食料を購入するか、選択を迫られていると話す人は多い。

 ルヤンダさんの祖母であるボンギウエ・ンランゴスィさんによると、子供たちは朝食を食べずに登校する日もあるという。そして、孫たちが歩いている道中について最も心配している。「この辺りには薬物中毒者がいます。朝の早い時間に子供たちと出くわし、携帯電話を奪ったり、ナイフで脅したり、性的暴行を加えようとすることもあります」と話す。

 石炭採掘の町ダンディーからおよそ50キロメートル離れた村の学校長は、数人の女子生徒が地元の悪党に性的暴行を加えられて以降、スクールバスを追加で導入するための承認を得ようと奮闘してきたと説明する。

 報復行為の恐れから匿名を条件とする校長は「バスが満員であったため、学校まで歩くほかなかったのです」と話す。

 全校400人以上の生徒がいる一方で、学校が所有する2台の古いバスを利用できるのはわずか65人程度である。どちらか1台のバスが完全に故障してしまったり、事故で破損したりする事態を校長は危惧している。

 2022年9月、同州の町ポンゴラで、超満員の生徒を乗せて学校へ向かっていたミニバンが事故を起こし、18人の生徒が犠牲になった。

 エンドゥメニ自治市の市議会議員マシュー・ングコボ氏は、AP通信をある渓谷へ案内した。浅瀬ではあるものの流れの速いこの川を子供たちは渡らなければならない。「ここは非常に危険な場所です。前回大雨が降った際には車が流されてしまい、運転手はやむを得ず救助を要請しました」と話す。

 同氏は「教育を受けるために、毎日ここを通らなければならない子供たちについて想像してください」と訴える。

 学校の近くにある寄宿舎へ子供を預ける保護者もなかにはいるものの、費用がかさむうえに、家庭での貴重な働き手を失うことになる。

 ワスバンク村のエブシ複合学校に通う9年生のバヤンダ・ヒョンワニーさんは、以前は遅刻することが多く、「先生が教室に入れてくれなかった」と話す。

 バヤンダさんは両親に、学校から近い場所に住みたいと訴えた。願いは聞き入れられ、現在は親戚の家に滞在している。学校からわずか2キロメートルの距離だ。

 NPOのイコール・エデュケーションで活動するテボゴ・ツェサネ氏は、最長2時間かけて歩いて通学していた生徒たちからの手紙をきっかけに、2014年からクワズール・ナタール州全域で通学手段の改善を求めるキャンペーンを始めた。

 政府からの最新の統計資料によると、クワズール・ナタール州内の1148校が、政府資金による通学のための移動手段が順次提供されるのを待っている。

 州の教育部は、この記事に関するインタビュー取材を拒否した。教育部からの回答はいつも、資金がないために子供たちは歩き続けている、という内容のものだ。

 ツェサネ氏は「日常的な課題です」と言う。

By MOGOMOTSI MAGOME Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP