アメリカの公営プール問題 泳げなくなる貧困層とマイノリティ

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 アメリカではニューディール政策により1933年から1938年の間に公共のスイミングプールの建設や改築が進んだ。プールに行くことは豊かな生活の象徴になったが、1950年代ごろから自宅や民間のプールが増加し、税金で運営される公営プールは減少していった。近年、人手不足や莫大な維持費に耐え切れず閉鎖される公営プールも増えており、プールにアクセスできない子供たちの増加が懸念されている。

◆社交の場から公民権運動の舞台に 白人中流層は郊外へ
 アメリカのプールの歴史には差別が絡んでいる。CNNによれば、1920年代以前、北部のプールは男女別だったが、人種別ではなかったという。ほとんどの地域社会において、公営プールは夏に涼しく過ごすための場所であり、社交の場であったと、テネシー州の地方紙、エリザベストン・スターは説明している。

 しかし、男女差別撤廃が進むにつれ変化が起こった。ニューヨーク州立大学バッファロー校の歴史学者、ビクトリア・ウォルコット氏は、「清潔さと安全性にまつわる人種的固定観念に加え、水着姿の黒人男性が白人女性と交流することへの強い恐怖感によって、プールはアメリカで最も隔離された公共空間となった」と説明している(CNN)。

 1950年代から1960年代に起こった公民権運動の成功で、人種に関係なく公営プールを利用できるようになった。しかし、人種隔離撤廃によって公営プールを閉鎖する動きも出た。

 時期を同じくして、プライベートプールやスイミングクラブが急増した。この時代に、何百万というミドルクラスの白人家庭が郊外に移住。庭にプールを設置したり、有料のスイミングクラブを利用したりすることを選んだ。白人の公営プール離れが進むにつれ、税金によるプールへの資金提供や支援は減少。資金繰りに困った多くの自治体が、公共のプールを放置してきたという。(CNN)

Text by 山川 真智子