英、各地で暖かい避難所「ウォームハブ」開設 光熱費高騰で

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 シェイクスピア出生の地、ストラトフォード・アポン・エイボンでは、アザー・プレイス劇場のロビーが暖を求める人々の避難場所だ。利用者はコーヒーを飲みながら打ち合わせをしたり、メールをチェックしたり、詩を書いたり、裁縫の勉強をしたりして過ごしている。

 見たところも雰囲気も、ストラトフォードの絵画のように美しい街並みにある、アート風のカフェのようだ。しかしそれは、光熱費が途方もなく値上がりしているために自宅で暖房を使えず苦しんでいる人たちを受け入れようと、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)劇団が設置した「ウォームハブ」である。

 この冬、食品やエネルギーの価格が高騰し、多くの人々が空調を切ったり温かい食事を我慢しなければならない状況に追い込まれているなか、イギリスの各地に多数のウォームハブが開設された。野党労働党の調査では、そのようなウォームハブが1万3000ヶ所で確認された。慈善団体、地域団体、政府から資金援助を受け、図書館、教会、公民館、さらには国有地であるチャールズ3世のハイグローヴ邸のティールームなど、くつろげそうな場所に設置されている。

 アーティスト兼ライターで、7代にわたりストラトフォードに住んでいるというウェンディ・フリーマン氏は、友人からRSCのウォームハブの話を聞いた。フリーマン氏は「セントラルヒーティングのない小さな家」に住んでおり、暖をとるのはもっぱら石炭の火だ。多くの人がそうであるように、1980年代以来最大のインフレによる生活費の危機を乗り切るため、節約に励んできた。

 詩を書くのにぴったりの暖かく静かな場所としてウォームハブを利用していたフリーマン氏(69)は「ただ順応するだけです。やかんの水を少なくするとか、小さなことでいいんです。『小銭を大切にすればおのずと大金がたまる』と言われて育ちましたし。食事は一から手作りし、旬のものを食べるようにしています。とはいえ、どこか温かい場所へ行けるのは嬉しいですね」と語る。

 ロシアがウクライナで仕掛けた戦争が最悪な状況に陥っていることや、長引くパンデミックの混乱、さらにはブレグジットの余波を受け、イギリスでは経済的に苦しむ人が増えている。ロシアのウクライナ侵攻により暖房に必要な天然ガスの価格が跳ね上がったことで、家庭や企業に大きな影響が及んでいる。

 今年1月のイギリスの年間インフレ率は10%あまりとなり、食品の価格は1年間で17%近く上昇した。国家統計局によると成人の約62%が、節約のため天然ガスまたは電気の使用量を減らしている。また、調査会社サーベーションの調べによると、4分の1の家庭で生活必需品を買うお金が日常的に不足している。

 石油および天然ガスの価格は昨年のピーク時からは低下しているものの、イギリスの平均家庭の光熱費はまだ1年前の2倍の高さだ。4月1日には政府の定める上限価格が引き上げられるため、多くのものの値段がさらに20%上がる見込みとなっている。

 数学教師を引退したアン・ボルジャー氏はある日、散歩の途中で偶然そのウォームハブを見つけた。以降、毎週通っている。ウォームハブのなかでは、メールチェックや、数学の個人指導のための準備、ジグソーパズルなどをして過ごす。同氏は「今日のような日こそありがたいんです。自宅は凍えるような寒さですから」と言う。

 ウォームハブは、RSC劇団の所有する3つの劇場のうち最も小さいものを使い、週に1回、午後に開催している。火曜日になると、その空間には劇場のスタッフと、リハーサルに向かう俳優、そして暖をとろうとやって来た利用者が入り混じる。主催者側でパズル、ゲーム、子供用のおもちゃ、無料の紅茶にコーヒー、Wi-Fi、裁縫用の台まで用意している。

 66歳のボイジャー氏は「このようなクリエイティブな空間であるところが気に入っています。人々は打ち合わせをしたり、おしゃべりをしたり、仕事をしたりしています。家でじっとしているよりも少しだけ元気になれるような、少しだけつながりを持てているような気がするんです」と話す。

 これこそまさに、主催者の求めていた声だ。ウォームハブは、エネルギー貧困を緩和するとともに、孤独感を和らげるためにあるそうだ。

 RSCのクリエイティブ・プレイスメイキング・マネージャーとしてウォームハブを取り仕切る二コラ・サルモン氏は「暖房の効いた建物もそうですが、そのような温かさもまた来る人を歓迎してくれます。いつでも誰かしら会話できる相手がいるのですから」と述べている。

 ロンドンから約160キロ離れたストラトフォードは、出身者のなかでも最も有名なウィリアム・シェイクスピアのおかげで繁盛している裕福な町だ。極寒の平日でさえも観光客が集まり、ハーフティンバーが特徴的なチューダー様式の建築物が並ぶ通りを散策しては大詩人が生まれた家を見学し、勉強した教室を訪れ、中世のホーリー・トリニティ教会にある墓を見下ろす。

 RSCはストラトフォードの主要な文化財の一つであり、多くの住民の雇用主でもある。サルモン氏はウォームハブについて、「豊かで裕福だと思われがち」だが「深刻な貧困に苦しむエリア」も抱えている町との親交を深めることを目的とした取り組みの一つだとしている。

 ウォームハブは、イギリスのフードバンク(現在推定2500ヶ所)のように、常設化の兆しを見せている危機対策だ。

 ストラトフォード周辺のカウンティを対象とする慈善団体のウォリックシャー州農村地域協議会は、パンデミック禍の規制により農村部の住民が孤立に追い込まれていた2021年に、移動型のウォームハブを始動した。ミニバスがポップアップ式のアウトドアカフェになるというものだ。

 1年前、協議会はイギリスの燃料ガスの大半を供給している民間企業、カデントの支援を受け、カウンティの5ヶ所でウォームハブを運営した。冬の到来により光熱費が高騰するなか、その数は90ヶ所にまで急増。ガスの使用量削減を目的とし、食事の提供から修理サービス、じっくり弱火で作る料理の教室までありとあらゆるものを用意している。

 ウォームハブのうち30ヶ所は常設化を視野に、今年の夏も引き続き営業する見込みだ。先の移動式ウォームハブも、週に5日は路上に出る。

 ウォリックシャー州農村地域協議会でウォームハブのマネージャーを務めるジャッキー・ホールクロフト氏は「こんな状況があってはならないと言われていますし、実際あってはなりません。しかしこんな状況なんです。最も驚くべきは、ウォリックシャー州のあちこちから何百人、何千人ものボランティアが駆けつけ、その誰もが何かを変えようとして団結していることです」と言う。

 RSCのウォームハブは3月末で閉鎖となるが、すでに来年の復活に向けて計画が進められている。

 常連のボルジャー氏は「ものすごく寂しいです。燃料危機が永久に続いてほしいとは思いませんが、この空間が存続するよう願っています」と話す。

By JILL LAWLESS Associated Press
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP