海外の大学に行くことでお金を節約できるのか? 授業料だけではない必要な費用

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 2011年に高校の最上級生であったエマ・フリーアさんは、女子学生クラブやフットボールの大会、広範にわたる必修科目など、アメリカでのキャンパスライフに魅力を感じなかった。州内在住者向けの授業料を十分にまかなえる資金を用意していた両親には、「オハイオ州立大学へ行きたいとは、どうしても思えない」と伝えた。

 海外の大学へ進学する道を選択したフリーアさんは2016年、奨学金を借りることなくスコットランドのセント・アンドルーズ大学を卒業し、英語と社会人類学の修士号を取得した。「大学での教育は本当にすばらしいものでした。同時に、旅行や海外生活、そしてなじみのない文化の中で暮らすという意義のある体験を得ました。アメリカの学校に行けばよかったと思ったことは一度もありません」と語る。

 授業料が抑えられることが大きな魅力であるとして、海外での大学進学に着目するアメリカ人学生が増えている。

 イギリスの大学への出願を管轄する公的機関「ユーカス(UCAS)」によると、同国の大学に学部留学を希望するアメリカ人学生が急増しており、その増加率は過去5年間で49%になるという。一方で、フランスの高等教育機関への留学を推進する公的機関「フランス政府留学局(Campus France)」によると、フランスに留学中のアメリカ人の数は過去5年間で5%増加し、2020年から2021年にかけては50%の伸び率であったという。また、アメリカ国内における「大学留学」についてのグーグル検索数は、2021年2月以降、2倍以上に増加している。

 しかし、大学にかかる費用は授業料のみではない。片道航空券の予約に進む前に、海外での教育にかかる主な費用を理解しよう。

◆授業料
 「ビヨンド・ザ・ステイツ(Beyond the States)」を創業し、アメリカ人学生を対象にヨーロッパでの学位取得プログラムを紹介しているジェニファー・ヴィーモント氏は「人々は授業料に引きつけられ、そして関心を寄せるのです」と話す。

 海外での授業料は、進路先の国や都市、学校の種類によって異なる。たとえばドイツでは2014年以降、留学生を含むすべての学生を対象に、公立大学の授業料を廃止している。一方で、イギリスの名門オックスフォード大学では、留学生に課せられる授業料は年間で最大5万3900ドル程度である。

 アメリカの学生は、連邦政府からの補助金や貸付金を留学先の学費に充てることもできる。さらに、海外の大学では4年ではなく3年かけて学位を取得することが多いため、1年分の授業料やそのほかの費用が節約できる。

◆生活費
 生活費は滞在先の国や都市によって異なり、家賃や食費など、授業料以外にかかる基本的な費用によって左右される。

 たとえば、ノルウェーでは以前から出身国を問わずすべての学生に対して授業料を免除している。しかし、ベルゲン大学によると、平均的な学生の生活費は1ヶ月に1260ドル程度になるという。一方でポルトガルでは、基本的な出費はその半分に抑えられる。リスボンの応用心理学研究所(ISPA)によると、1ヶ月におよそ640ドルあれば、学生は何とか生きていけるという。

◆為替レート
 ノースカロライナ州のデューク大学と中国の武漢大学が共同で立ち上げたデューク昆山大学において、留学生受入事務局の局長を務めるジェシカ・サンドバーグ氏は「為替レートの変動によって、教育にかかるすべての費用を予測することは難しくなる」と指摘する。

 フリーアさんがセント・アンドルーズ大学に在籍していた時期は、為替レートの良い時ではなかった。「お金を貯めるために夏の間働き、スコットランドの銀行口座にお金を預けると、アメリカドルで入金した金額に対して半分近くになってしまうこともありました」と話す。さらに、授業料を支払う日によっては、数百ドルの差が出ることもあるという。

 為替レートの推移を考慮し、いくらか余裕をもった予算を立てることである。そして、為替レートの良い国への留学を検討することも手段の一つである。

◆医療費
 多くの国では、留学生にも公的医療システムを提供するために、保険料の年額費用を支払うよう義務付けている。年間で数百ドルの出費となる一方で、手厚い補償を受けることができる。ヴィーモント氏の息子がオランダで手首を骨折した時、費用の自己負担は一切なかった。

◆旅費
 自由な時間を利用して旅行に出たいと考える学生は、この費用についても予算に入れる必要がある。イギリスを本拠地とする大学入試コンサルティング会社「ザ・ユニバーシティ・ガイズ(The University Guys)」の創業者、デイビッド・ホーキンス氏は「物事がうまくいかないときには費用はかさむものだ」と助言する。家族が病気になるなどの緊急時には、旅費はより高額になる可能性がある。土壇場に立たされた状況下での帰国を想定し、必要な航空券代は別に取っておくとよい。留学に適したクレジットカードを用意することで、旅費の一部を軽減することもできる。

◆ビザ
 大半の国または地域では、学生ビザか滞在許可証の取得が義務付けられている。「ワールド・スチューデント・サポート(World Student Support)」の創業者であり認定教育プランナーのサンドラ・ファース氏によると、これらにかかる費用は一般的にそれほど多額ではないものの、「財源があることの証明」を要求されることがあるという。例を挙げると、イギリスでは初年度の授業料と少なくとも1万1200ドル程度の生活費をカバーできる資金を持っていることを証明しなければならない。

 サンドバーグ氏は「海外での生活にかかる費用は、個人の好みやスタイルによってさまざまです。予算のなかから取捨選択を行う若者にとってはすばらしいことであると同時に、悩みの種にもなるでしょう。実際の出費をより低く抑えることも可能ですが、結局は、出費に対する個人の習慣次第であるということになるのでしょう」と語る。

By ELIZA HAVERSTOCK of NerdWallet
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP