学校で教えてくれないことをTikTokで学ぶアメリカの学生たち

Ryan Collerd / AP Photo

 ペンシルベニア州フィラデルフィアに住む高校生のメッカ・パターソン・グリディさん(17)には、学びたいことがあっても、内容によっては教師に聞きづらいときがある。そんなときTikTok(ティックトック)を見るという。

 このSNSプラットフォームには、警官の射殺行為に対する抗議、市民活動、アメリカにおける黒人やヒスパニック系の歴史に関する動画がある。「Fast Black History(すぐにわかる黒人の歴史)」や「Black Girl Magic Minute(黒人女子の魔法の瞬間)」 などをよく見ている。

 グリディさんによると、それらの動画は「授業で習わないテーマ」を扱っているという。

 人種、性別、セクシュアリティに関する教育について保守的な人々から厳しい目を注がれていることもあり、教師の多くは文化の違いに触れる問題について議論するのを避けるようになっている。学びに対するニーズと供給の溝を埋めようとして、生徒はSNSにアクセスしているのだ。そこではネットの有名人やNPO(非営利団体)関係者、教師らが、学校という枠にとらわれずに生徒とつながる方法を模索している。

 生徒の世界観を広げたいと考えている教育関係者にとっては、SNSプラットフォームは新たな機会だといえる。

 2月の黒人歴史月間に、元教師のアイシス・スパン氏が公民権運動に携わった人について教え子の幼稚園児に話そうとしたところ、サウスカロライナ州の教育当局から指導が入った。これを契機として、同氏はデジタルコンテンツの開発に転じた。また、当時の園長からは「Strong Black Queen(力強い黒人の女王)」と刻まれたピアスを適切ではないという理由で外すように言われたこともあったという。

 スパン氏は「納得できなかった。私が黒人でなかったら、違った受け止め方をしたと思わずにはいられなかった」と述べている。

 同氏は教師を退職した後、現在は「FUNdamentals of Learning(学習の楽しい基本)」という会社を経営し、対面またはオンラインで使える教材を提供している。学校や教育管理者の規範に縛られずに自身の考えを伝えられる現状に感謝しており、「SNSのコンテンツには番人などいない」と話している。

 シリウスXMラジオのティックトック・チャンネル「Black Girl Magic Minute」でホストを務めるテイラー・キャシディさん(19)は、触発を受けた女性のストーリーを取り上げ、黒人文化に関するニュースを動画で伝えている。

 歴史や時事問題に関する見解がネット上で注目されている人物としては、アトランタを拠点とするパーソナリティで、黒人コミュニティの社会的・政治的トピックを扱う「Parking Lot Pimpin(駐車場ピムピン)」という番組を主宰しているライナ・ボーグス氏がいる。また、2019年にイェール大学で初の黒人生徒会長に選ばれたカーリル・グリーン氏はSNSで自らを「Z世代ヒストリアン」と称し、黒人の歴史や文化にまつわる情報を提供している。

 ティックトックでは、プラットフォーム上に多くの教育コンテンツを掲載するよう奨励してきた。新型コロナウイルス感染症の影響でアメリカの生徒の大半がリモート学習をしていた2020年5月、同社は数百万ドルを投資し、専門家や有名人、教育機関と協力して「#LearnOnTikTok(ティックトックで学ぶ)」のハッシュタグをつけて学習教材を投稿していくと発表した。

 ただし、ネットに掲載される内容がすべて教材になるとは限らない。

 専門家によれば、信頼できる教材とそれ以外(軽薄なコンテンツ、不正確な情報、陰謀論など)を生徒が区別できるようにするためには、デジタルリテラシーの教育が重要である。出所を見究め、裏付けとなる情報を見定める能力が求められる。

 フロリダ州立大学のヴァネッサ・デンネン教授は「保護者や教育関係者はティックトックについてもっと知る機会を設け、とくにこのプラットフォームについて理解し、子供たちにどのように接していけばよいかを考えるべきだ」と述べている。アメリカにはティックトックだけでも約8000万人のユーザーがおり、その多くが若者だ。

 デンネン教授は「親や大人がいないから、子供たちはティックトックを使っている」とした上で、誠実な心を持った人が生徒の関心をそそる動画を作れば、受け手が文脈を理解する背景知識を持ち合わせている限り、図書館や講義などで見聞きする内容と同じような教育効果が期待できると話している。

 一方、この2年ほどの間に成立した法律の施行により、10を超える州では人種差別や性差別にまつわるテーマについて教室で議論する動きに制限がかけられている。

 子供たちが読む本にまで、そうした議論の是非が及ぶようになってきた。国内の禁書を追跡調査しているアメリカ図書館協会によると、2021年には図書館、学校、大学で1597の文献が禁書の対象となり、729件の撤去要求があったという。2000年の調査開始以来、最も多い件数である。

 ケネディ・マッコラムさん(18)の場合、フェニックスにいた頃はティックトックの動画でよく歴史を学んだという。今でもニュースを見て社会の動きを知り、自身の金融スキルを身につけるために定期的にSNSにアクセスしている。現在は由緒ある黒人教育機関でもあるバージニア州のハンプトン大学に通っているマッコラムさんは「高校時代を振り返ると、教師は現実に起きている問題、特に警官による残虐な行為についてまったく話をしていなかった」と言う。

 グリディさんはかつて、アフリカの伝統に誇りを持たせるようにする教育を重視するサンコファ・フリーダム・アカデミー・チャータースクールに通っていた。現在は白人教師が多いハイスクール・フォー・クリエイティブ&パフォーミング・アーツ(CAPA)に通う彼女は、人種に関連する問題を皆が必ずしも快く思っていない印象を持っているという。

 学校で黒人の歴史について話をする機会はあったものの、議論は中途半端で、黒人のトラウマが根本にあると感じられたため、もっと前向きになれる内容を求めてSNSにアクセスしたという。グリディさんは「黒人、ヒスパニック系、アジア系、先住民の歴史が見落とされることは多々ある。女性の権利、性教育、中絶についての議論をしていきたい。私たちに直接関わる問題について、もっと語り合わなくてはいけない」と述べている。

By CHEYANNE MUMPHREY AP Education Writer
Translated by Conyac

Text by AP