ゼレンスキー大統領がタイム誌「今年の人」に選ばれた背景とは

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◆ゼレンスキー大統領選出の背景
 2022年の「今年の人」の選出について、「記憶の限り、最も明確な選択だった」とエドワード・フェルセンタル(Edward Felsenthal)編集長は言う。ゼレンスキー大統領は、ここ何十年のなかで、目にしたことのないようなやり方で、世界に刺激を与え、奮い立たせた。インスタグラムから、世界銀行から、グラミー賞の授賞式まで、大統領はさまざまな機会を活用し、世界を味方につけた。国連では、北朝鮮、シリア、エリトリア、ベラルーシを除く141ヶ国が、ロシアの侵攻を非難した。世界各地でウクライナ国旗が翻り、各地の人々はウクライナ国民に対しての支援を示した。こうした事実が、ゼレンスキー大統領が「今年の人」に選ばれた理由だ。もちろん、大統領に対しての批判もある。しかし、ゼレンスキーはコメディアンとしての才能を生かした情報発信で世界を巻き込み、大きな影響を与えたことは間違いない。タイム誌のジャーナリスト、サイモン・シュースター(Simon Shuster)は、ウクライナ現地で取材を続け、大統領の専用列車内で2時間にわたり、ゼレンスキーへのインタビューも行った。

 一方、ウクライナの精神とは、国内外の数えきれない人々の精神を体現したものだ。同誌は、難民たちに無料で食事を提供したシェフ、負傷者を治療した医療関係者、自らを危険にさらしながら報道を続けたジャーナリストらを取り上げる。たとえば、ウクライナから英語で発信をするオルガ・ルデンコ(Olga Rudenko)がその一人だ。世界に関心を持ち続けてもらうような発信をすることが、今の課題だと彼女は言う。

 実際、長期化するウクライナとロシアの戦争に対しての世論の関心が薄れつつある。戦争がいまだ進行中の出来事だからこそ、2022年の「今年の人」は、2022年という「過去」を振り返るものではなく、来るべき未来において、私たちが認識すべき存在だと言える。

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Text by MAKI NAKATA