「生き地獄」アジアの若者がだまされカンボジアで強制労働 人身売買組織が暗躍

カンボジアの人身売買行者から救出されたマレーシア人(9月9日)|Vincent Thian / AP Photo

◆ほとんど奴隷 搾取地獄に
 人身売買のニュースはこのところアジアで大きく報道されている。8月18日にカンボジアのカンダル州の中国系カジノから42人ほどのベトナム人が脱走し、1人が死亡した事件がその一つだ。カジノの外に住む友人たちが協力者となり、金属棒を振り回す警備員に追われ川に飛び込む脱走者たちの姿を撮影し、ソーシャルメディアに投稿。事態の深刻さが伝わったことで、カンボジアとベトナムの当局を動かすきっかけになった。カンボジア当局は強制労働と虐待の疑いでこのカジノの中国人マネージャーを拘束した。(カンボジア紙クメール・タイムズ

 脱走した労働者たちによれば、給与は合意した額以下で、支払われないときもあったという。さらに、オンライン詐欺やオンラインギャンブルの運営を強いられ、暴力や拷問を受けたり、家族に多額の身代金を送らせるよう強要されたりもしたという。カンダル州にはベトナム人などを雇用するカジノが7つあり、「搾取地獄」になっているという指摘もある。(米議会出資のラジオ局ラジオ・フリー・アジア

 台湾ではここ数ヶ月で少なくとも46人が帰国したが、無理やり契約書にサインさせられ、暴行やレイプ、飲食物を与えられず頻繁な脅迫を受けたという報告もされている。台湾の警察は人身売買に関連した67人を逮捕しているが、救出活動はカンボジアとの国交がないため複雑化している。被害を防止するため、台湾警察は国際空港を巡回し、カンボジアに向かう旅行者に質問と警告を行っている。(ガーディアン紙)

◆国際社会を意識? カンボジア政府も対応強化へ
 カンボジア警察は1月から8月までの間に865人の外国人被害者を救出したとしているが(クメール・タイムズ)、ガーディアン紙は不十分な取り締まりと腐敗がカンボジアでの救出活動の妨げとなってきたと指摘。

 国連のムンタボーン特別報告者も現在の状況は被害者にとっての「生き地獄」だと述べる。同氏は、人身売買の供給源から目的地に変貌するカンボジアの最近の状況を踏まえ、被害者に優しい方法で詐欺と被害者を特定するための対策を取るべきだと提言している。(国連ニュースサイト『UNニュース』)

 カンボジア当局も各国からの要請と苦情を受け、被害者の捜索・救出の強化に乗り出した。カンボジア人権開発協会の報道官は、これまで当局は情報を秘匿し真実の公開を望まなかったと指摘。厳格な対応ができなければ、国際社会、とくに欧米に法執行機関の貧弱な国と見なされるため、犯罪組織への断固たる措置を支持すると述べた。(クメール・タイムズ

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Text by 山川 真智子