英家庭の電気・ガス料金、来年に月8万円にも 不払い運動も

Mark Burrows (Nottingham, UK) / Shutterstock.com

◆支払い拒否で対抗 変化を起こせるか?
 現在の記録的なエネルギー価格の上昇で、この冬、多くの人々が支払いに苦労することは確実だ。これらの人々を助けるため、「Don’t Pay UK」というキャンペーンが開始された。政府が10月1日に予定の上限価格引き上げを行った場合は支払いをしないことに、少なくとも100万人の賛同を得ることを目指している。

 100万人の署名を求めることはかなり野心的と言えるが、キャンペーン担当者は、エネルギー会社に十分な圧力をかけ、その過程でコストを下げることも狙っているという。実は1989年に当時のサッチャー政権が逆進性の高い人頭税を導入し、人々の抗議により結果的にサッチャー氏が辞任に追い込まれるという事件があった。人頭税は次の政権で撤廃されており、これと同じことが起こるかもしれないと、グローバル・メディア、タイムアウトは述べている。

◆エネルギーの貧困 今後さらなる価格上昇も
 もっとも、料金不払いにはリスクもある。支払いを拒否することで、家庭の負債が増え、個人の信用格付けにも影響を与えると政府は警告している。さらに、エネルギー供給会社からガスや電気を止められて寒い冬を過ごすこともあり得る。実はイギリスのエネルギー料金の支払い方法は口座引き落としと前払い式がある。前者の場合は支払い猶予があるが、後者では残高が尽きればすぐに電気・ガスが止められてしまうため、「Don’t Pay UK」では後者を利用する人の参加は勧めていない。(ロンドンのメディア、ナショナル・ワールド

 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、前払い式のほうが料金は高く、使った分だけすぐ支払いをしなければならなくなる。この方式は400万世帯が利用しており、不払い運動に参加せずとも、暖房が必要な冬場の支払いが滞る可能性がある。まさにエネルギーの貧困が問題化しつつあり、すでにある財政支援策の拡充が政府に求められている。

 もっとも、ガス卸売価格は過去10年間の通常の水準の約10倍で、欧州の卸売価格が上昇し続ければ最終的な数字はまだ上がる可能性があると専門家は指摘している(FT)。タイムズ紙は、住宅ローン金利、交通費、通信費などすべてが値上がりしており、エネルギーは苦しみの始まりに過ぎないと指摘する。イギリスの家庭にとって、今年の冬はとりわけ長く厳しいものとなりそうだ。

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Text by 山川 真智子