途上国を直撃する物価高パンデミック 生活必需品高騰で社会混乱

スリランカ首都コロンボの大統領公邸のデモ隊(7月20日)|Rafiq Maqbool / AP Photo

◆生活必需品の高騰と人々の怒り
 ここでポイントになるが、「生活必需品の高騰が人々の怒りに火をつける」ということだ。ペルーやスリランカでは衝突や暴動に発展し、多くの死傷者も確認されたが、重要なのは「生活必需品の急激な価格高騰」である。先進国でも同じ問題を抱えているが、とくに途上国では経済格差が深刻でインフレ率が高く、それによって最低限度の生活をかろうじて維持してきた人々が生活必需品を突然買えなくなるという状況が生じる。それに危機感を抱いた人々がすぐに抗議の声を上げ、それによって衝突や暴動に発展するケースが少なくないのだ。近年でも似たような事例がある。

 たとえば、今年初めにも、中央アジアのカザフスタンで石油価格の値上げに抗議する反政府デモが各地に拡大した。一部ではデモ隊と治安当局の間で激しい衝突に発展し、200人以上が死亡、4000人以上が負傷したとも報道された。

 また、2019年には生活必需品の価格急騰に端を発した抗議デモ、暴動があちらこちらで発生した。イランでは11月、ガソリン価格が3倍に値上げされたことで市民による抗議デモが各地に拡大し、一部情報によると数百人以上が犠牲となったともいわれる。抗議デモは首都テヘランのほか、シラーズ、マシュハド、ビールジャンド、マフシャフルなど各地で発生し、暴徒化した一部の市民は通りに出て車に火をつけたり、警官隊と衝突するなどした。ガソリン価格の高騰に対する抗議デモが続くなか、イラン政府はデモを抑えるためイラン全土でインターネット通信を遮断する措置に踏み切った。

 レバノンでも10月、財政難に苦しむ政府がスマートフォンのSNSアプリ使用に対する課税を発表して以降、数万人規模の若者たちによる抗議デモが各地に拡大し、一部で衝突が発生した。南米チリでも10月、政府による地下鉄運賃値上げ決定に反対する若者らの抗議デモが首都サンティアゴをはじめ各地に拡大した。若者の一部が治安当局と衝突するなどし、20人以上が死亡、500人以上が負傷する事態となった。

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Text by 本田英寿