香港だけではない、世界各地で爆発する若者の不満

Khalid Mohammed / AP Photo

 香港政府は23日、今年4月に提出され、数ヶ月に及ぶ抗議活動の発端となった「逃亡犯条例」改正案を正式に撤回した。デモ隊が掲げる「五大要求」のうち1つが取り下げられたが、デモ隊は「民主化デモを暴動とした認定の取り消し」「逮捕されたデモ参加者の逮捕取り下げ」「警察の暴力行為に対する独立調査委員会の設置」「普通選挙の実現」の残り4つも求めており、依然としてデモ隊と香港警察との衝突が続いている。すでに、実弾による負傷者も複数出ており、香港にとっては1997年の香港返還以降最大の危機となっている。

◆イラクやレバノン、チリでも
 視野を広げると、このところ香港と同じような状況が世界各地で発生している。

 イラクでは10月1日以降、現政権の雇用や経済政策に反発する市民による抗議デモがバグダッドや南部の各都市で相次ぎ、6日までにデモ隊と警官隊の衝突などで100人以上が死亡、6000人以上が負傷した。また、25日から週末にかけても再び大規模な反政府デモが発生し、これまでに60人以上が死亡、2000人以上が負傷した。イラク政府は雇用対策などいくつかの改革案をすでに発表しているが、市民による抗議デモや警官隊との衝突は続いている。一部の若者は、現政権が崩壊するまで抗議活動を続ける意思を示している。

 レバノンでは10月17日、政府がスマートフォンのSNSアプリ使用に対する課税を発表して以降、数万人規模の抗議デモが続いている。多数の負傷者が出ている模様で、抗議デモは首都ベイルートを中心に全土に拡大した。レバノン政府は、すでに同課税撤廃を含む改革案を発表しているが、市民による抗議デモが収まる気配は見られない。デモ参加者は、失業、貧困、医療制度や政治制度などあらゆる面での改革や、現政権の退陣などを強く求めている。また、27日には、デモ参加者らが北部トリポリからベイルートを通って南部ティールまで続く170キロに及ぶ「人間の鎖」を作り、現政権に抗議の意志を示した。

 さらに、チリでは10月18日以降、政府による地下鉄賃上げ決定に抗議するデモが首都サンティアゴをはじめ各地に拡大した。デモ隊の一部が暴徒化して治安当局と衝突するなどし、これまでに19人が死亡、500人以上が負傷する事態となっている。サンティアゴでは、最大120万人が集まって大規模な行進を行うなどした。ピニェラ大統領はすでに、地下鉄賃上げ決定の撤回、発令してきた非常事態宣言と夜間外出禁止令の解除を発表しているが、不平等な賃金や教育などの改革を訴える市民の怒りが収まる気配は見られない。

◆蓄積した若者の不満が一気に爆発する
 上記4つの国・地域で発生しているのは別個のできごとではあるが、「政府の1つの決定に対する反発ではなく、積もりに積もった不満が1つの決定が起爆剤となり一気に爆発した」という点は共通している。よって、政府が起爆剤を片づけたとしても、それによって引火した怒りを沈静化することはできず、その不満は過激化・長期化しやすい。出口の見えない状況が各国で続いている。

Text by 和田大樹