アメリカ23州で中絶禁止へ 1973年「ロー対ウェイド」の終焉

人工妊娠中絶の権利を訴えるデモ参加者(ワシントンDC、5月14日)|Kevin Wolf / AP Photo

 これとともに、共和党州で中絶そのものが禁止される可能性が高くなり、事実、NBCニュースによると、今回の判決が決定した後に、全米50州のうち23州で中絶が禁止される予定で、うち13州では最高裁の判決が下された後に自動的に禁止となる法律がすでに施行されているという。南部ルイジアナ州では中絶を殺人罪として扱う法案が提出されたが、CNNによると反対多数となり可決されなかった。同記事によると、この法案では受精の瞬間から胎児を人間と認め、いかなる中絶も殺人罪として扱われるという過激なものだった。

 中絶禁止となるのはそのほとんどが共和党州だが、なかにはミシガン州のように州知事が民主党員で、2020年の大統領選挙でバイデン大統領が勝利した州でも、州議会議員が共和党過半数という州もある。反対に、モンタナ州やアラスカ州のような保守州で中絶の権利が保護されている場合もある。中絶禁止となる州で中絶を希望した場合、基本的には権利を保障している他州まで行かなければならないが、なかには他州で中絶手術を受けることも禁止している場合もある。

◆中世時代の英国裁判官を参考
 ここでの大きな問題は、女性が望まない妊娠をした場合、中絶手術を受ける権利を失うだけでなく、中絶手術を受けて罰せられるのが女性のみで、その女性を妊娠させた男性を罪に問うわけではないことだ。そしてもし出産したとしても、その後の負担の多くは女性の肩にのしかかってくることになる。妊娠・出産に関する女性の権利を無視し、女性だけを罰するというのは、まさに時代を逆行する暴挙としか言いようがない。

 MSNBCによると、最高裁のアリート判事はリークされた多数派意見で、17世紀の英国人で同国の国王裁判所首席裁判官だったマシュー・ヘイル卿や、13世紀に英国で裁判官や法学者を務めたヘンリー・ド・ブラクトンを何度も引用し、参考としているという。アメリカにおける女性の権利は、ヨーロッパ中世時代、アメリカの独立前の形に戻るべき、とでも言いたいのだろうか。

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Text by 川島 実佳