中国はなぜ「ゼロコロナ」に固執するのか 人権、経済に多大な影響も

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◆効果低下か? それでもやめられない理由
 習近平政権は現在の政策が唯一の打開策としているが、中国では5月5日までに60歳以上の61.5%しか3回目の接種を受けていないなど、高齢者や最も感染に弱い層に効果的にワクチンが届いていない。また、国内調達された効果の低いワクチン接種に依存しており、41都市で一部閉鎖が行われているにもかかわらず感染者が急増している。3月初めから5月9日までに76万3845人の感染者と555人の死者が公式に記録されているが、これはおそらく過小評価されており、ゼロコロナ政策は万能薬ではなくなったとアイリッシュ・タイムズ紙は述べている。

 アナリストたちは、いまやゼロコロナ政策は共産党と習近平主席の政治的正当性のなかに定着しており、状況が変化しても大規模で有害な敗北がない限り出口はないと見ている(ガーディアン紙)。CNNは、共産党内からゼロコロナ政策への反発が起きていると見ているが、北京の政治アナリストWu Qiang氏は、ゼロコロナは習主席の政治的権威と密接に結びついた疑う余地のない、対抗する余地のない政策になっていると述べている。

◆武漢をはるかに上回る 経済にも悪影響
 上海式のロックダウンが続けば、経済状況が悪化すると予測する専門家もいる。現在実施している週3回の検査体制をすべての一線都市で実施した場合、年末までに2021年のGDPの1.5%に当たる2570億ドル(約33兆円)のコストがかかると予想される。5月の労働節休暇の観光消費は前年比43%減となり、鉄道旅客も70%減少した。(ガーディアン紙)

 北京大学の経済学准教授、徐建国氏によれば、ロックダウンと交通規制は今年すでに1.6億人に影響し、これらの人々が住む都市の経済生産高を合わせると18兆元(約334兆円)にもなるという。2年前の武漢の感染拡大時には、1300万人、約1兆7000億元(約32兆円)の地域経済に影響があったが、人口と経済への影響に関して言えば、いまのゼロコロナ政策は武漢の10倍の厳しさになっていると同氏は指摘。5.5%成長という今年の目標達成をも危うくすると見ている。(サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙

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Text by 山川 真智子