「鳥はすべて国民監視ドローン」陰謀論パロディ運動「鳥は偽物」とは?

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◆意図のあるパロディ
 インターネット文化やオンライン・クリエイターのビジネスに関する記事の執筆を専門とするニューヨーク・タイムズのテクノロジー記者テイラー・ローレンズ(Taylor Lorenz)は、「鳥は偽物だ」という運動は、陰謀論が溢れる時代に生きるZ世代の若者が団結して陰謀論に抵抗するための一つの方法になっていると報じている。運動を率いる中心人物のマッカンドゥーは2017年以降、「鳥は偽物だ」という陰謀論信者を演じてきた。「鳥は偽物だ」に参加する人々は無論、陰謀論がパロディであると認識している。

 ローレンズの記事によると、マッカンドゥー自身、さまざまな陰謀論に揉まれて育ったという。18歳まで保守的で宗教的なコミュニティで育ち、学校に通学しないホームスクーリングで偏った教育を受けてきた。高校生以降、SNSやインターネットを通じて「リアルな世界」を学んだという。トランプ前大統領就任直後の2017年1月、友人に会うために訪問したメンフィスでは、反トランプのウィメンズ・マーチ(Women’s march)が開催されていた。同時に、そこではトランプ支持者による反対プロテストが起こっていた。その状況を目の当たりにしたマッカンドゥーは、壁にあったポスターを剥がし、裏側に「Birds Aren’t Real」と書いた。「それはとっさの冗談ではあったけど、人々が感じていることの馬鹿馬鹿しさを反映していた」と彼は発言している。

 その後、マッカンドゥーは「鳥は偽物だ」という陰謀論と嘘の歴史をでっちあげ、フェイスブックに動画を投稿したところ南部のティーンらを中心に拡散し、徐々に「陰謀論」が広まっていった。2018年、彼は大学を中退して、「鳥は偽物だ」運動を本格化。俳優を雇い、陰謀論のコンテンツを制作。コンテンツは、ティックトックやインスタグラムを通じてさらに拡散した。サイトを通じて販売しているグッズの収益は、マッカンドゥーともう一人の仲間が生計を立てる術となっている。

「鳥は偽物だ」は本格的なパロディとして成立しているが、単なる冗談以上の意図がある。でっちあげられた、基本的には無害の陰謀論は、実際に存在するより有害な陰謀論の影響力を弱めるという可能性を秘めている。9月、彼らはテキサス州の事実上の中絶禁止法を支持する人々の運動の横で、「鳥は偽物だ」を合唱し、中絶禁止法支持派を退散させた。「鳥は偽物だ」というデマを拡散してきた団体だが、今後はパロディである正体をより明確に発信していくことで、実際に存在する陰謀論に対抗する活動を展開していく予定だ。対立的で強固な姿勢ではなく、パロディで楽しみながら陰謀論に抗うZ世代。彼らの運動の今後の展開に期待したい。

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Text by MAKI NAKATA