なぜロシアでワクチン接種が進まないのか

Alexander Polegenko / AP Photo

◆低いワクチンへの信頼、モチベーションも低下
 接種が進まない理由の一つは、ロシア人の国産ワクチンに対する懐疑心だ。BBCによれば、2月の世論調査でも、スプートニクVの接種を受けたいと答えたロシア人は、接種開始時から8%低下し30%しかいなかった。安全性に関するデータも公開されているが、接種後の合併症についての噂なども広がっており、保守的なロシア人は政府と政府から出るものを信頼していないという。

 APは、ワクチン供給にも問題があったとしている。実は大量生産に遅れが出て、3月には多くの地域でワクチンが不足していたという。国産ワクチンは3種あるが、スプートニクVがそのほとんどを占めており、最近までワクチン到着待ちという自治体も多かったということだ。これに対しクレムリンの報道官は、すでにワクチンの供給量は十分で、需要が接種率を決定づける要因だと述べている。

 ロシアのワクチン接種の動きを追っているデータ・アナリストのアレキサンダー・ドラガン氏は、接種が進まない理由の一つは、当局が流行を抑制したという情報のせいだと述べる。ほとんどの規制が解除され、政府高官がクレムリンのパンデミック対応を称賛するなか、人々の接種を受ける動機が薄れてしまったと見ている。ほかにも、当局やメディアが発したコロナ情報に一貫性がなかったこと、ワクチンキャンペーンが始まり、有名人や公人が接種体験を語っても、プーチン大統領をはじめ彼らが接種を受ける様子が放映されなかったことなどが、接種見合わせにつながったと指摘されている。(AP)

◆感染者増加も経済優先 余ったワクチンの行方は?
 最近モスクワでは7日間の平均新規感染者数が1月以来最高となった。APによれば、この1ヶ月間でモスクワの新規感染者数が着実に増加しており、政府の関係者からは「ワクチン接種が不十分」という声も出ている。

 ロシアでは、昨年感染者が急増したときにも経済を優先して、ほかの欧州諸国とは対照的に2度目のロックダウンを行わなかった。トルコへの渡航禁止などいくつかの規制を除いては、政府は国内の新たな規制を拒否しており、いまが第3波到来ではないかという意見も否定している(ブルームバーグ)。このまま接種が進まなければさらなる感染増加が心配される。

 APによれば、自国でワクチン接種できない外国人グループがモスクワに集まり、ホテルなどで接種を受けているという。需要を上回る供給があるということで、ドイツなどワクチンを切望する国の人々の格好の受け皿となっているようだ。

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Text by 山川 真智子