「ハグテント」で安全な触れ合いを実現 コロラド州の高齢者施設

AP Photo / Thomas Peipert

 リンダ・ハートマンさんは、ハグを求めていた。

 77歳の夫には、8ヶ月以上触れることができずにいた。夫のレン・ハートマンさんは認知症を患っており、ここ1年間は郊外のデンバーにある入居型介護施設で過ごしている。しかし2月3日、新型コロナウイルスの感染が拡大する以前に戻ったような感覚を少しだけ味わうことができた。一体どのような体験だったのだろうか。

 ハートマンさんは、「ジュニパー・ビレッジ・アット・ルイスビル」という施設の外に設置された「ハグテント」で、厚さ4ミリの透明なプラスチックの幕越しに、プラスチック製の袖に腕を通してという条件付きではあったが、55年近く連れ添った夫を抱きしめることができた。

 束の間の面会の後、75歳のハートマンさんは「こうしたいと心から願っていました。まさに、私が求めていたものです。私にとっては大きな意味のある経験でしたし、とても長い時間に感じました」と話している。

 ハートマンさんは椎骨を2ヶ所骨折しているため、自分の力では夫の面倒を見ることができない。夫は少し困惑していたようだが、再び抱きしめ合えたのは、2人にとって大切な経験だったといいう。

 ハートマンさんは、「お互いずっとそうしたいと思っていましたから、嬉しかったです。抱きしめている間、彼の眼鏡が邪魔になったり、彼の体が冷えてしまったりしましたが。テントの出来は完璧ではなかったが、それでもできることはありますし、それが重要なのだと思います」と話す。

 ウイルスの感染が拡大して以来、アメリカの各地だけでなく、ブラジル、イングランドなどにも同じようなテントが出現し、「カドルカーテン」とも呼ばれている。

 デンバーの郊外、ルイスビルにある入居型介護施設では、入居者と従業員の全員にワクチンの接種を行っている。その上で、医療関連の活動を行う非営利団体「TRUコミュニティケア」と提携し、プラスチック建材を用いた「ハグテント」を設営した。風は強いが、温かい冬の日のことである。

「ジュニパー・ビレッジ・アット・ルイスビル」で広報を担当するアンナ・ホステター氏は、「ずっと叶わなかったハグができるというだけで、大きな安堵感が得られると思います。テントの企画・設営の段階では、完成図を見てもプラスチックなどをどんなに駆使したところで、本当に人と人との触れ合いを実現できるのだろうかと不安に思っていました。しかし、そのような不安はなくなりました。テントは、入居者の皆さんにとって本当に特別なものとなったのです」と話している。

 ハグテントは2月9日に再び開催され、施設では今後も参加を受け付けることにしている。

 グレッグ・マクドナルドさんにとって、84歳の母、クロエ・マクドナルドさんの手を握るのは貴重なひとときとなった。親子が触れ合えたのは、4月ぶりのことだったのだ。母は、孫の成長について聞くのを楽しみにしている。

 マクドナルドさんは、「時間は貴重なものですから、日常を取り戻せるまでの間にも皆がそれぞれにできることをしようとしています。そんななかで人と人が触れ合う機会を増やそうと取り組んでくれている彼らに、感謝しています」と話す。

「TRUコミュニティケア」のプロジェクト・コーディネーターを務めるアマンダ・メイアー氏によると、「ハグテント」は同氏の夫と数人のボランティアが組み立てた。骨組みには2.4メートル四方の標準的なポップアップテントを使用し、接着剤と面ファスナーでプラスチック建材を取り付けた。腕を通すためのプラスチック製の袖は、刺繍枠に装着する形でテントに備え付けられている。

 11月初旬以降、コロラド州内で4つの「ハグテント」の設営に携わってきたが、いずれも評判は上々だと言う。メイアー氏は、「喜びのあまり涙を流す人もたくさんいますし、一体どうしてこのようなことが叶ったのだろうと驚きを隠しきれない人も多くいます。とても奇妙な感覚です」と言う。

 メイアー氏は、「人間のとても基本的な欲求である肌と肌との触れ合いが実現したとき、参加者の体や表情に、ホッとしたような様子が見られます。高齢者施設などでは、入居者は家族と一緒に過ごせませんから、触れ合いがなくてずっと寂しい思いをしているのです。その気持ちは数値化できるようなものではありません。現場で実際に見て、体感して初めて、どれほどのものかわかるでしょう」と話している。

By THOMAS PEIPERT Associated Press
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP

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