結婚による改宗に厳しく 一部州の「反改宗法」で逮捕者続出 インド

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◆「反改宗法」はラブ・ジハード防止が目的?
 新しい「反改宗法」への抗議の声が高まっている理由としては、同条例を施行した3州はすべて国政を担うインド人民党(BJP)が政権を握る州であることも関係している。同党はヒンドゥー至上主義の旧ジャナタ党が母体となって設立されており、所属する政治家のなかにはイスラム教徒に対してあからさまな敵対心を見せる者もいる。実際にインドの都市部では、同党やその支持団体が関与したとされる異教徒襲撃事件(被害者の多くはイスラム教徒)が過去に発生してきた。

 また、ウッタル・プラデシュのヨギ・アディツアナス州首相は「反改宗法」施行前に開催された選挙集会(2020年10月)で「ラブ・ジハードを行う者はそれを控えるか、死を覚悟しなければならない」という趣旨の発言をし、物議を醸した。「ラブ・ジハード」とは、イスラム教徒が結婚や恋愛を口実にヒンドゥー教徒の女性を改宗させることを意味する造語で、ヒンドゥー至上主義者や政治団体が「反改宗法」の必要性を主張する際の常套句となっている。今回施行された「反改宗法」に「ラブ・ジハード」という言葉は明記されていないが、一部メディアが正式名称を使用する代わりに「ラブ・ジハード法」などと表記しているのは、こうした経緯が関係している。

◆イスラム教徒の増加を危惧する「反改宗法」支持派
 一方で「反改宗法」の必要性を訴える人々は、イスラム教徒とテロや暴力行為を紐づけ、同国でイスラム教徒が増加している状況を危惧する。2011年の国勢調査によると、ヒンドゥー教徒が人口の79.8%であるのに対し、イスラム教徒は14.2%。その前の調査(2001年)ではヒンドゥー教徒が80.5%であるのに対し、イスラム教徒は13.4%だった。比率にすれば微々たる増加だが、インドにおけるイスラム教徒の数はすでに2億人を超えている。2020年4月から開始予定であった国勢調査(2021年)は新型コロナウイルスの影響で延期されたが、仮に予定通り実施されていれば、イスラム教徒の比率がさらに増加したことが明らかになり、より過激な対策を求める風潮が高まっていたかもしれない。

 さまざまな宗教を信じる人々が生活を営むインドは政教分離の原則を掲げ、憲法でも「信教の自由」を保障しているが、最大数の信者を抱えるヒンドゥー教中心の国家でもある。ヒンドゥー教とイスラム教では、生活習慣や婚姻制度、死生観、女性の社会的地位などさまざまな点で違いがあり、融和を図ることは想像以上に難しい。

「反改宗法」はイスラム教徒やそのほかの宗教を信仰する一部の人々にとって忌まわしい法となりうるが、その反面、同条例が結婚を目的とした少女の誘拐事件などを防ぐ目的では一定の効果を発揮するのも事実だ。インドの複雑な宗教事情を考慮すると、「反改宗法」の是非をめぐる争いがそう簡単に終結することはないだろう。

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Text by 飯塚竜二