印パ、緊張緩和も残る火種 たがが外れ暴走する過激派組織

AP Photo / K.M. Chaudary

 互いに核兵器を保有する隣国同士のインドとパキスタン。紛争中のカシミール地域をめぐり一時は全面的な軍事衝突の瀬戸際まで至ったが、一旦事態は沈静化している。

 しかし、インドのナレンドラ・モディ首相とパキスタンのイムラン・カーン首相は、安定を脅かす根本的な問題を解決できておらず、新たに緊張が高まる可能性もある。

 今春の選挙で再選を目指すモディ首相は、カシミールのインド実効支配地域で起きた自爆攻撃により数十名のインド治安部隊が死亡した事件について、毅然とした対応を示すことで、支持母体であるヒンドゥー・ナショナリストに対する任務を果たした。

 自爆攻撃に対する犯行声明を出した過激派組織ジェイシュ・ムハンマドの訓練施設を攻めるとして、インドはパキスタン領内を爆撃した。これにより、イスラム教徒が大多数を占めるパキスタンに対して妥協のない姿勢を示すことが、政治的に効果的であるという主旨が実証され、モディ首相の人気はますます高まった。

 カーン首相は対話と事件の究明を公約し、事態の鎮静化を図った。同首相は、低迷している自国の経済問題に重点を置き、繰り返し発生する議案についてインドと和平対話を行ってきた。

 それにもかかわらず、パキスタンの危険な過激派組織はますます統制がきかなくなっている。その多くは、インドに対抗するパキスタン軍の代理組織として作り出されたものだ。

「今後も持続する過激派組織の存在は、新たな緊張状態をもたらす発端となる。結論を言えば、これらの組織が領内で活動を続ける限り、パキスタンの国際的な印象や立場が修復されることはない」と、ワシントンを拠点とするアメリカ平和研究所のモイード・ユースフ氏は述べる。

◆最近の非常事態
 ヒマラヤ地帯に創設されたかつての藩王国カシミールをめぐって、パキスタンとインドは過去に2度の戦争を行っている。敵対する2国間で分断されたものの、両国それぞれがカシミール全体の領有権を主張している。
 
 2月14日に発生した自爆攻撃では、カシミールのインド実効支配地域においてインド治安部隊40名以上が死亡した。過激派組織ジェイシュ・ムハンマドが犯行声明を出した。インドは26日、過激派組織の訓練施設を標的にするとしてパキスタン領内を空爆した。多くの過激派メンバーを撲滅したとインドは主張する。しかし、パキスタンや現場にいたジャーナリストらは、攻撃は何もない森林地帯に行われたと述べている。

 パキスタンは翌日、報復としてインド空軍機を2機墜落させ、インド軍パイロット1人を拘束した。

 カーン首相は国営テレビで演説し、モディ首相に対し和平対話を呼びかけ、自爆攻撃の究明を公約した。その日の後になって、ジェイシュ・ムハンマドが自爆攻撃に関与したとする証拠が列挙された調査書類が、インドから提出された

 3月1日、事態を鎮静化させる意思と戦争回避への希望を表明し、パキスタンはインド軍パイロットを解放した。

◆インド・カシミールの反乱
 カシミールは、ヒンドゥー教が大部分を占めるインドにおいて、唯一イスラム教徒が大多数を占める州である。そこで広がった反発の声は、インドによって暴力的に抑圧されてきた。インド治安部隊による暴力や拘留、拷問が横行していると、国際的な人権擁護団体は非難している。

 インド政府からの支配に対する反乱は30年に及び、7万人以上の死者を出している。反政府勢力は、統一したカシミールとしての完全な独立、もしくはイスラム教国であるパキスタンとの統合を望んでいる。

 インド治安部隊による弾圧は、地元出身の新しい世代の活動家らを生み出してきた。2月14日の自爆攻撃は地元出身の男によるものだった。インドが実効支配する地域に内在する怒りの深さが浮き彫りになった。

◆モディ首相対カーン首相
 モディ首相は、選挙運動の一環としてヒンドゥー・ナショナリズムを鼓舞してきた。部分的に、反パキスタンを表す言い回しを取り入れている。

 対立が激化するこの地域において、少数派のイスラム教徒がますます脅威にさらされているという報告が寄せられている。インド国内のカシミール出身者は自爆攻撃以降、怒れる群衆の標的になった。

 屈強なパキスタン軍からの支持を得ているカーン首相は、調停役としての動きをみせた。先月27日以降、モディ首相に3度電話をかけているが、インドの最高指導者は応答しなかったと話す。

 昨年の選挙以降、カーン首相は低迷している国内の経済を立て直し、インドとの関係修繕に重点を置いてきた。元クリケット選手の同首相は、自身の就任式にインド人選手のナブジョ・シンフ・シドゥ氏を招待している。

◆パキスタンの過激派組織
 パキスタンには、統一したカシミールの主権を強く求めるための部隊として、反インド過激派組織を育成してきた歴史がある。

「ここ数年は、軍や諜報部隊がいくつかの組織に対する支配力を失っているか、もしくは組織への影響力が衰えてきているようだ」と、地域紛争について2冊の本を執筆したザヒド・フサイン氏は述べる。

 ジェイシュ・ムハンマドはこれまでに2度、パキスタン元首相であり軍事独裁者であったパルヴェーズ・ムシャラフ氏の暗殺を企てた。世論のためであったとはいえ、ムシャラフ氏が治安部隊を同過激派組織から遠ざけようとしたことが原因である。

「このような過激派組織を全面的に支援することはもはや方策ではなく、むしろ存在を持続させることで不安定が長期化する」と、フサイン氏は述べる。

 パキスタン陸軍司令官を退任し、防衛アナリストを務めるタラット・マソオッド氏は、パキスタンについて「政策に二枚舌を使うことはできない」と話す。「この種の過激派組織は存在しないと世界に向けて主張しながら、その一方で、これらの組織を全世界に向けて露呈している」という。

 パキスタンは、国家安全保障の一環として対策を講じる必要がある、とマソオッド氏は述べる。

「このような組織によって、パキスタンの名が汚されることがないよう、そしてインドにパキスタンを非難し続ける機会を与えないよう、パキスタンはより力強い国になる必要がある」と、マソオッド氏は話す。

By KATHY GANNON and EMILY SCHMALL, Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP