米大統領就任式で存在感、22歳詩人アマンダ・ゴーマンの戦略と夢

Patrick Semansky / AP Photo

◆米議会占拠事件を受けて完成させた詩
 20日の就任式で、ゴーマンは「The Hill We Climb」という題名の自作の詩を朗読した。彼女に詩の創作と朗読を依頼したのは、ファーストレディーのドクター・ジル・バイデン。ドクター・バイデンは、ゴーマンが2017年に披露した「An American Lyric」という詩の朗読を視聴して、約1ヶ月前に依頼したそうだ。重大なタスクを受けたゴーマンは、1日数行ずつ書き進めていたが半分ぐらいできたところで、1月6日の米議会占拠事件が起こり、米国が民主主義の危機にさらされた事件の描写を付け加えた(米ニューヨークタイムズ)。詩全体は、バイデン政権がかかげる団結のメッセージと呼応する。詩を通じて、団結、コラボレーション、一体感といったテーマを強調するような言葉を届けたいという思いがあったようだ。6分近くにわたったエネルギッシュな朗読では、議会占拠事件、さらには過去4年間のトランプ政権の間に分断が進み、傷ついたアメリカの状況に触れつつも、いまこそ新しい未来を作るときだという点を強調。勇気があれば夜明けの光になることができるという希望のメッセージで締めくくった(詩全文)。

 内容だけでなく、その朗読パフォーマンスそのものにも迫力があり、自身の存在感を世界に印象づけたゴーマンだが、幼少期は特定のアルファベットの発音がうまくできないといった言語障害を抱えていたという。しかし、そのことが逆に詩に引かれた要因の一つでもあるようだ。過去、クリントン大統領の就任式で詩の朗読を行った米国の偉大な詩人マヤ・アンジェロウも、かつて発話障害を抱えていた。またバイデン大統領は、吃音障害を抱えていたことが知られている。ゴーマンは、NPRとのインタビューで、言語障害で苦労した経験を持った雄弁家が就任式の舞台に立つという歴史が繰り返されているようだとコメントした。

◆大統領を夢見るゴーマンのファッション戦略
 その饒舌さだけでなく、彼女が放つイメージには固有の政治力がある。ゴーマンは2019年のヴォーグとのインタビューにおいて、ファッションと詩には関係性があり、ファッションは言葉にはっきりとした視覚的な効果をもたらすものだと発言している。ファッションが詩人としてのアイデンティティを表すものであると同時に、彼女はファッションを通じて、政治的・社会的なメッセージを発信している。彼女のスタイルは、マヤ・アンジェロウやミシェル・オバマなどのアイコン的存在と、アフリカのルーツに影響されており、「堂々として、若々しくありつつも、成熟さのある」スタイルに引かれるという。

 就任式では、イエローのプラダのロングコートを着用したゴーマン。2019年にはミラノで開催されたプラダのファッションショーにも招待されており、縁があるブランドだ。彼女は、プラダのヘッドデザイナー、ミウッチャ・プラダのフェミニスト的な思想に引かれているそうだ。今回イエローを選んだのは、彼女を就任式に招いたドクター・バイデンに敬意を表したものだ。ドクター・バイデンが依頼を決めた際に視聴していたビデオでも、ゴーマンはイエローのドレスを着用しており、ドクター・バイデンがそれを非常に気に入っていたからだ。さらに、彼女が身につけていたゴールドのイヤリングと指輪は、彼女のファンとなったオプラ・ウィンフリーから送られたものだ。ウィンフリーは、過去にマヤ・アンジェロウが就任式で着用したコートと手袋を送っている。ゴーマンの指輪は、カゴに入れられた鳥(caged bird)がモチーフになっている。これはアンジェロウの代表作「I Know Why the Caged Bird Sings(『歌え、翔べない鳥たちよ』)」を象徴したものだ。ウィンフリーは、ゴーマンの朗読終了後に、(2014年に他界した)アンジェロウもわたしも声援を送っているとツイート。未来ある黒人女性として、ゴーマンは多くの期待を背負っているのだ。

 ゴーマンは、2017年に全米青年桂冠詩人に選ばれた直後の米ニューヨークタイムズとのインタビューで、「まだまだとても先のことですが、2036年の大統領選挙に出馬しますから、iCalカレンダーに書いておいて」と発言している。冗談交じりの雰囲気もあるが、今回発表された「The Hill We Climb」の詩の中でもその夢について触れている。バイデン大統領とハリス副大統領が描く、アメリカ民主主義のインクルーシブな次章の先に、黒人女性大統領の姿があるに違いない。

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Text by MAKI NAKATA