解説:英国のEU離脱完了、何が変わるのか? 旅行、仕事、運転……

AP Photo / Frank Augstein

 昨年までは、イギリスとEUの市民の多くはブレグジットの現実を感じていなかった。イギリスは2020年の1月末に欧州連合(EU)を離脱したが、新たな経済関係構築に向けた移行措置の一環として、同年内はEUの規則が適用された。

 しかし、そのすべてが変わった。

 2021年1月1日からは、50年にわたる経済、文化、社会的な統合を経て、イギリスはEUとの新たな、そして距離を感じる関係を結ぶことになったのだ。

 イギリスの経済と国民に与える変化としては、第二次世界大戦以降でもっとも劇的である。1973年に当時のEEC(欧州経済共同体)に加盟したときの影響をはるかに凌ぐのは確かだ。

 シンクタンク「The UK in a Changing Europe」のディレクターで、キングス・カレッジ・ロンドンでヨーロッパ政治と国際関係を専門としているアナンダ・メノン教授は、「イギリスの経済システムにとって、大きな衝撃が瞬時に走るだろう。1月1日の朝に目覚めると、そこには新しい世界が広がっているのだから」と話す。

 以下、ほぼ一夜にして人々が感じることになった変化の一部を紹介する。

◆何が変わったのか
 新型コロナウイルスの大流行によってイギリスとEU間の人の往来は激減しているとはいえ、2021年1月1日から移動の自由がなくなったことは、ブレグジットが引き起こす最大の影響である。

 12月24日に英EU間で合意された離脱協定の下では、EUに合法的に住んでいる約100万のイギリス人の居住権は現在とほぼ変わらない。これはイギリスに住む300万人以上のEU市民にも当てはまる。
 
 しかし、イギリス国民はもはやEUに居住し、EUで働く権利を自動的に与えられなくなった(その逆も同様)。国境を越えて定住を希望する人は、入国管理規制に従わなくてはならないほか、資格の認定などのお役所仕事にも直面することになる。

 例外はイギリスとアイルランド間の往来で、両国には共通の渡航エリアが別に設けられている。

 EUに住む多くの人々にとって、域内27ヶ国のどこにでも旅行、留学、居住ができる自由は、欧州統合の最も魅力的な側面のひとつである。

 しかし、2004年に東欧の旧共産主義諸国がEUに加盟し、多くの人々がイギリスやほかの富裕国に移住して働くようになってからは、イギリスや一部の西欧諸国の間では、移動の自由に対する懐疑的な見方が広がっていた。移民に関する懸念は、2016年に実施されEUからの離脱が争点となったイギリスの国民投票に大きな影響を与えた。

◆新しい旅行規則
 休暇を利用した旅行はビザ(査証)なしでも可能だが、イギリス国民がEU 加盟国に滞在できるのはあらゆる180日間の期間内で最大90日間であるのに対し、EU市民はイギリスに最大6ヶ月まで連続滞在が認められる。

 退職後、スペインの太陽が降り注ぐコスタ・デル・ソルの別荘に3ヶ月以上滞在していたイギリス人にとって、この変化はショッキングなことかもしれない。ヨーロッパを旅行するイギリス国民のパスポート残存期間は最低6ヶ月必要になるほか、自身で旅行保険を購入しなければならない。イギリス人は今後、EU域内で医療サービスを受けられることを保証する欧州健康保険カード(EHIC)を取得することができない。ただ、EUを訪れるイギリス国民とイギリスを訪れるEU市民が引き続き医療保険に加入できるようにするためにイギリスでは代替制度を設けるとしている。

◆ペットの扱い
 毎年夏になると犬、猫、フェレットを連れてEUに旅行することに慣れているイギリス国民にとっては、状況がいっそう複雑になるだろう。イギリスはもはやEUのペットパスポート制度が適用されなくなるためだが、今回の合意により、一部の人々が恐れていた数ヶ月にも及ぶ煩雑な手続きは回避される。イギリスでペットを飼っている人は、旅行の少なくとも21日前に動物へのマイクロチップ装着と、狂犬病の予防接種を済ませた上で、出発の10日前までに獣医師から動物健康証明書を入手する必要がある。

◆車の運転は面倒になるか
 協定により、イギリス人ドライバーがドーバー海峡を渡っても国際運転免許は必要とされない。イギリスのドライバーは「グリーンカード」という形で保証されている免許を携行している限り、イギリスの免許証と保険を使ってEU内を旅行できる。

◆仕事について
 移動の自由がなくなることは、労働市場のあらゆる面で雇用に大きな影響を与えるだろう。

 たとえばギリシャの島々で休暇を過ごしているイギリスの新卒生の場合、必要なビザがないとビーチバーまで出向いてパートタイムの仕事を探すことはできなくなる。同じことがイギリスを訪れるEU市民にも当てはまる。必要な書類がなければ、「プレタ・マンジェ」のようなサンドイッチ店などで仕事を探すことができなくなるだろう。

 大企業についても、イギリス、EUともに海を隔てた地域からの人材雇用がはるかに困難で高コストになることを実感するはずだ。協定には、請負業者やビジネスパーソンがビザなしで短期出張できるようにする条項が含まれている。

By PAN PYLAS Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP

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