なぜ人は陰謀論を信じるのか? 人間の本能を突く巧妙な仕組み
◆次々に立てられたフェイクニュース対策
フェイクニュースの危険性については、世界各国で数年前からフォーカスが当てられ、それなりの対策が講じられてきた。たとえば、エッセンシャル・サンテ誌(3/9)によると、リベラシオン紙やAFP通信、フランス24、フランス・アンフォなどのフランスの複数のメディアはファクトチェッキング(事実確認)組織を設立した。20minutes紙も、フェイクニュース対策としてフェイスブックと連携して「フェイクオフ」ニュースレターを発行したり、スナップチャットで注意を喚起している。ル・モンド紙に至っては、サイトの信頼性をチェックする検索エンジン「Décodex」も作成した。GAFAMのほかモジラなどのインターネットブラウザもフェイクニュースと戦う姿勢を見せているし、2018年にアメリカで生まれたブラウザ拡張機能「ニュースガード(NewsGuard)」は、9つの基準をもとにして、情報サイトの信頼性をブラウザに直接表示するサービスを国際的に提供している。さらに、ここ数年で、フランスやドイツ、シンガポールでは、フェイクニュースを規制する法律も制定された。
◆フェイクニュースを信じる理由
それにもかかわらず人は簡単にフェイクニュースに飛びつき、陰謀論に魅了されるように見える。それはなぜか?
認知神経科学専門のアルベール・ムークハイバー氏が、エッセンシャル・サンテ(2/10)のインタビューに答えた「人がフェイクニュースを信じる理由」と、社会学者ジェラルド・ブロネ教授がシアンス・アヴニール誌(2018/2/15)に語った「人が陰謀論を信じる理由」には、共通する点が三つある。その一つは、人が「恐怖に反応しやすい」本能を持つということだ。つまり、恐怖を覚える情報は信じておいたほうが身のためだと、ヒトの本能が告げるのである。公衆衛生高等研究院EHESPのシャンボー学長による「フェイクニュースの半分以上は健康に関するもの」で、それは「病気に関することが怖れを抱かせる」からだ(エッセンシャル・サンテ、3/9)という言葉もこれを裏付けるものだ。二つ目は、巷に交錯する情報の多さだ。一つ一つ真偽を確かめる時間がないため、「予防的に信じる」ことになるわけだ。三つ目は、人は、自分がすでに信じていることに近い内容に呼応しやすいという点だ。ここにさらにアルゴリズム効果が加わると、同じ方向性の情報しか目に入らなくなる。「SNSはフェイクニュースの加速装置」と言われるのもこのアルゴリズム効果が理由だ。
さらにブロネ教授は、上の3点に加え、信じること自体がモチベーションとなりえる点を指摘している。言い換えると、フェイクニュースであろうと陰謀論であろうと、信じることが自分のアイデンティティとなり、さまざまなことをクリアにしてくれるような気がするわけだ。EUも、陰謀論への注意喚起ページで、陰謀論は「理解し難い事件や状況を、あたかも論理的に説明するように見え」、まるで制御できるかのような「誤った感覚を与えてくれる」と記述している。ましてやパンデミック流行という五里霧中の環境においては、クリアな視界を与えてくれるように思えるフェイクニュースや陰謀論はことさら魅力的に映るのだろう。
スイス、フリブール大学のワグナー=エッガー教授は、陰謀論を信じさせる要因に、「テレオロジー(目的論)思考」を挙げている。テレオロジ―思考とは、すべての事象に何らかの、誰かしらの意図・目的があると見る考え方で、その「誰か」が秘密結社であれば陰謀論に傾き、超自然的存在ならば創造論に傾くことになる。当然ながらテレオロジ―的思考は、「偶然の起こる可能性を拒否する」ものとなる(ウエスト・フランス紙、2018/8/23)。そうして、大事なのは、このテレオロジ―思考は「本能的な推論」だということである。
つまるところ、人はいかなる状況においても、「自分が状況や情報を制御しクリアな見通しを持っている」と思いたいのだ。また、もうひとつ明らかなことは、理性が勝っているように見える現代人も、本能に打ち勝つのは至難の業だということだ。恐怖に強く反応し、テレオロジ―思考を辿りやすいことがその証左である。
ウエスト・フランス紙は、本能的な思考に打ち勝つには広い意味での教育が必要だと結論づけている。目に入る情報を鵜呑みにするのでも、既存の思想をやみくもに否定するのでもなく、公正に、かつ批判的思考をもって、あらゆる局面に対峙する姿勢が、いまこそ必要とされるのではなかろうか。
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