新型コロナウイルス消毒液、注意すべき使い方

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◆経産省と厚労省の冊子、次亜塩素酸ナトリウム消毒液に注意書きなし
 さて、「次亜塩素酸水」と名前がよく似たものに「次亜塩素酸ナトリウム」がある。次亜塩素酸ナトリウムは、「まぜるな危険」で有名なカビ取り剤や漂白剤の主成分である。このものは強アルカリ性なので、手につけると皮膚を侵し、目に入れば失明の危険もある。1980年代後半には、カビ取り剤を使ってトイレやふろ場を清掃中の婦人が死亡する事故が起きている。理由は、酸性洗剤を同時に使用したことによる塩素ガス中毒だった。次亜塩素酸ナトリウムと塩酸が反応すると、中和反応が進行し塩素ガスが発生する。この事故後、「まぜるな危険」の文字が挿入されたのである。

 その市販の「次亜塩素酸ナトリウム」を希釈して、消毒液として使用する方法が厚生労働省と経済産業省から推奨されている。希釈方法などが記載されたパンフレットがすでに地域の自治会経由で各家庭に配布されている。また、各自治体のホームページにも記載がある。それによれば、たとえばキッチンハイター25ml(付属のキャップ一杯)を1リットルの水に溶かすと0.05%の消毒液ができるとされる。

 ただし、この使い方には注意が必要だ。1)絶対に手指の消毒には使わないこと、手すり、ドアノブ、机などに限る。2)スプレー容器で噴霧しないこと、吸い込むと気管支などに炎症を起こす恐れがある。3)使用するときには換気に気をつけること。4)消毒液を作る際には、台所用手袋を着用すること。5)効力が長持ちしないので、使うときに必要な量だけ作ること。6)金属製品を拭くと変色や腐食の恐れがある。7)次亜塩素酸ナトリウムの量を間違えないこと。

 これらの注意が必要だが、厚生労働省と経済産業省のパンフレットには、一番重要なこと、「手指には絶対に使わないこと」が記載されていないのは大きな問題だ。

◆薬用せっけんが危ない
 2016年9月、米国食品医薬品局(FDA)は、トリクロサンなど19種類の殺菌剤を含む抗菌せっけんの発売を禁止すると発表した。我が国では薬用せっけん、ハンドソープとして広く使用されている。トリクロサンは2015年、EUで使用禁止になったものである。理由は、殺菌効果が優れている科学的根拠に乏しく、健康に悪影響を与える可能性があったからだ。専門的になるが、トリクロサンに1個の酸素原子が入れば、有害なダイオキシン類になる。

 我が国でも2016年9月、FDAの発表を受けて、やっと使用禁止措置を取った。しかし、規制は薬用せっけんに限定され、シャンプー、化粧水、歯磨き粉、うがい薬などに依然として使用されているのは問題だ。

 トリクロサンに代わる殺菌剤として、塩化ベンザルコニウムが使用されている。少し専門的になるが、これは第4級アンモニウム塩であり、この種の化合物には殺菌作用があることが知られている。ある歯磨き粉には、塩化セチルピリジニウム塩という第4級アンモニウム塩が含まれている。

 抗菌・除菌・殺菌剤の開発により、現在の我々の生活環境は昔と比べて格段に衛生的になり、快適な生活が保たれていることは喜ばしい。しかし、ここで述べた化学物質以外にも、多くの化学物質が身の回りで、あまりにも頻繁に使われているのに、一般の市民にはわからないままである。化学物質の危険性、化学物質の使い方に注意を払う必要があるだろう。抗菌・除菌・殺菌剤入りの洗浄剤を使わないで、普通の石けんで丁寧に手洗いをすれば、それで十分ウイルス対策になるとの意見にも耳を傾ける必要があるかもしれない。

Text by 和田眞