コロナ最前線で闘うスーパーの店員 感染への恐怖と誇り

AP Photo / Jerome Delay

 生活用品や食料品を販売するスーパーマーケットの従業員は、毎日飛ぶように売れていくトイレットペーパーや卵、青果、缶詰の補充に追われている。

 そして、何百もの人々が付近を行き交うキーパッドや冷蔵庫の取っ手、レジカウンターを消毒する。新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、不安を感じるほど人々と近い距離に立つこともある。また、突然のくしゃみや咳による飛沫を防止するため、レジカウンターに設置されたプラスチック製透明シートの向こう側で長時間働く人もいる。

 スーパーマーケットの従業員は医師や看護師ではない。けれども感染者や死者数が増加している状況において、店での仕事への献身的な姿勢が、ローマ教皇フランシスコやバラク・オバマ前大統領、またソーシャルメディア上の多くの人々から称賛されている。

 南アフリカからイタリア、アメリカに至るまで、低賃金であることの多いスーパーマーケットの従業員は、世界的なロックダウン(都市封鎖)が相次ぐなか最前線に立たされている。食料品や生活必需品の流通を停滞させないためには不可欠な仕事なのだ。従業員のなかには、ウイルスに感染することへの不安を抱いたり、高リスク者である大切な家族にウイルスを持ち込むことを懸念したりする人もいる。そして、勤務時間を短縮し休憩を確保するといった職場における予防対策の改善や、一般の人々と近い距離で働くことへの「危険」手当を求める従業員もいるなど、不安やストレスは募るばかりだ。

「みんな、どこにいても恐怖を抱いています。この南アフリカでも、世界中のどこにいても」と、ヨハネスブルグ郊外の都市、ノーウッドの「スパー」でレジ係を務めるザンディル・ムロツワ氏は話す。

 新型コロナウイルスの症状は、発熱や咳といった軽度から中等度のものが多く、大半の感染者が治癒している。一方で、とくに高齢者や基礎疾患を持つ人にとっては、肺炎の発症や死亡を含め、重症化する可能性がある。

 アメリカの一部の州ではミネソタ州やバーモント州を皮切りに、スーパーマーケットの従業員に対し、勤務中は子供を公立保育園へ預けることができるという特例措置を設けている。コロラド州、アラスカ州、テキサス州をはじめとする多くの州では、スーパーマーケットの従業員を「ファーストレスポンダー(初動対応要員)」と位置付けるよう、知事に対し地位の向上を強く求めている。

「このような状況のなか、政府はよりいっそうの責任を果たさねばなりません」と、サラ・シェリン氏は話す。同氏はアメリカで最初にCOVID-19の感染が確認された都市シアトルで、全米食品商業労働組合の委員長を務める。

 スーパーマーケットの従業員およそ2万3,000人と、1万8,000人の医療従事者が加入する労働組合は、早い段階で賃上げ要求を勝ち取った。

「一般の人々が家に留まっているとき、我々は出勤しているのです。ほかの人同様に我々にも予防対策が必要です」と、シェリン氏は話す。

 アメリカでは、生活用品や食料品の配達業者が雇用主に対し、給与を引き上げることや、マスクや手袋、ガウンなどを支給すること、そして検査を受ける機会を与えることを要求している。スーパーマーケット「ホールフーズ」の従業員は最近、賃金を倍にするなどの労働条件の改善を求めて「病欠」することを呼びかけた。食品宅配サービス「インスタカート」から業務受託している一部の配達員は、さらなる予防措置を強く求めストライキを行った。

 対策を講じている大手企業もある。

 国内最大手のスーパーマーケットチェーン「クローガー」は4月18日までの間、すべての時給制従業員に対し「ヒーローボーナス」として時給を2ドル上げることを発表した。当面の賃金を時間あたり2ドル上げると決めたスーパーマーケットの「ウォルマート」や「ターゲット」など、他社に追随したものだ。

 ウォルマートによる賃上げは倉庫で働く時給制従業員を対象にしたものだが、フルタイムとパートタイムの全従業員にもボーナスを支給している。国内で最大の民間企業のウォルマートやターゲットは、最前線で働く従業員にマスクや手袋を支給し、入店客数を制限することを発表した。ウォルマートに勤務する約150万人の従業員は、出勤時に体温を測っている。

 新たに発表された対策について、ウォルマートの広報担当ダン・バートレット氏は、「救いの手と受け止める人が大半なのでは」と話す。

 しかし、社会的距離を保つなどの規則に買い物客が従わなければ、このような対策を講じても不安は解消されない。

 ニュージャージー州アバディーンの食料品店「ショップライト」に勤務するジェイク・ピネリ氏によると、買い物客同士が2メートルの距離を保つことはなく、マスクや手袋を着用している人はほぼいないという。従業員には防護具が支給されているが、年齢の若い従業員は、高齢の同僚や健康に問題を抱えている人に譲ることも多い。

「私たちの多くが不安に駆られています」とピネリ氏は言う。しかし、地域の力になりたいと考え、仕事を続けている。

「お金のためだけではありません。この地域のためにどんなことでも支援したいと考え、これがいまのところ私にできる唯一の方法なのです」と、同氏は話す。

 ウイルスに感染した従業員もいる。

 スーパーマーケットチェーン「ショウズ」は、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州、バーモント州の6店舗で勤務する従業員に対し、COVID-19に感染した従業員がいることを先週発表した。手洗いを十分に行うこと、体調の悪いときには外出しないことを改めて注意喚起した。

 バージニア州ノーフォークにある「オーガニック・フード・デポ」では、現金のやり取りを停止している。持参したエコバッグの利用はできず、16歳以下の子供は入店を禁じられている。

「店から感染者が出てしまうと休業することになるでしょう」と、店長ジェイミー・ガス氏は述べる。

 ガス氏(47)の妻は喘息の持病を持っており、新型コロナウイルスの影響を受けるリスクが高い。しかし、このような危機的状況のなかで食料品を確実に供給し、人々を支える仕事に誇りを感じている。

「ウイルス感染への恐怖はもちろんあります。同じ仕事についている人はみんな同様に不安を抱えているはずです。できる限りの予防策は取っているので、それほど多くの心配は必要ありません」と、ガス氏は話す。

 COVID-19による死者数が1万4,000人を超えたイタリアでは、小さめで家族経営の小売店が好まれているようだ。

 たとえば、ローマにある食料品店「インノセンツィ」は、エマヌエラ・インノセンツィ氏の祖父が1884年に創業した。店内には木製の食品棚が並び、入り口の階段は大理石で作られている。一人一人の客に店員が応対する習慣が重んじられ、別の時代に戻ったかのような感覚を覚える。小さな店に入ることのできる人数は、現在2人までとされている。

 歯科医院では従業員にマスクを支給しているが、毎日アルコールで消毒し、繰り返し使用している。

 エマヌエラ・インノセンツィ氏は、ローマ教皇の称賛を軽く受け流した。

「医師や看護師は専門的な訓練を受けます。これが、私たちの仕事なのです」と、インノセンツィ氏は話す。

By JIM VERTUNO Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP