ブラジルの殺人件数、過去12年で最小に 警察による殺人は増加

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 ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領は2月14日、大統領任期の初年に記録された犯罪指数のうち、殺人件数が過去10年余りで最低レベルだったことを祝福した。

 ブラジル国内では2019年の1年間に4万1,635人が殺人で死亡したが、これは前年比19%減で、いわゆる「暴力モニター指数」が発表されるようになった2007年以降では最少だった。このデータは、非営利組織「治安に関するブラジル・フォーラム」とサンパウロ大学暴力研究センター、ならびにニュースウェブサイトの「G1」が共同し、2月14日に同ウェブサイトに公開したものだ。

「ブラジル国内の殺人、暴力、詐欺事件が減少!」「ブラジル政府は、国内すべての治安機関に強く感謝する。ブラジルは正しい道を歩み続けている」とボルソナーロ大統領は自身のツイッターアカウントに歓喜の書き込みを投稿し、G1のニュースレポートをシェアした。

 極右政治家のボルソナーロ氏は、犯罪・暴力との闘いを公約の一つに掲げ、治安の悪化に疲弊した人々の間に支持を広げて最終的には大統領のポストにまで上り詰めた。犯罪に対しては暴力をもって対抗することを推奨する発言を彼はこれまで繰り返しており、「犯人を殺した警官は、裁判で罰するのではなく、むしろメダルを授与するべき」とも述べている。

「暴力モニター」の記録上、殺人件数が最悪を記録した2016年には、ブラジル国内の殺人件数は6万件近くにのぼった。

 セキュリティに関するシンクタンク「イガラッペ研究所」の創設者の一人、ロバート・マガー氏は、殺人件数の大幅な減少は確かに「驚異的」だと述べながらも、その原因に関するブラジル政府の主張については疑問視する。

 ボルソナーロ氏が大統領選挙に勝利し、暴力を抑え込むための反犯罪法案に署名したのは2019年末だが、マガー氏によると実はそれ以前の2018年の初頭には、すでに犯罪件数は減少に転じていた。

「ボルソナーロ大統領とその支持者らは、ここ最近の治安の改善を自分たちの成果にしたいようです。しかし実際には、彼らの努力とはほぼ無関係なところに、それ以外の要因が存在します」とマガー氏は語る。

 マガー氏およびその他のセキュリティ分野の専門家らは、警察の実力行使の強化が治安指数の改善につながっているとの見方には同意しない。ブラジル国内の治安改善をもたらした要因として、彼らは次のようなさまざまな説を挙げている。「国内各州で新たな保安政策が実施された」「麻薬組織間の抗争の鎮静化」「人口動態のシフト」「マフィアのメンバーが連邦刑務所に収監された」「経済活動の活性化」さらには、「スマートフォンの普及で若者が屋外で過ごす時間が減った」という説まで存在する。

 マガー氏によると、これらさまざまな要因が犯罪の減少に寄与しているが、それぞれの要因が個別にどの程度の影響をもたらしたかは不明だ。

 ブラジル政界では、犯罪に対する強硬姿勢が支持を広げている。ボルソナーロ氏の扇動的発言をそっくり真似た元警官や元軍人らも、この流れに便乗し、国会や州議会で議席を獲得している。また2018年には、ブラジルの二大都市であるリオデジャネイロとサンパウロにおいて、犯罪を一切許容しない強硬政策を掲げた候補が州知事選で勝利した。

 リオ州およびその他の複数の州では殺人件数が減少する一方、警官による殺害件数が急増している。しかし、この数字は統計上の殺人にはカウントされておらず、捜査もほとんど行われていない。

By MARCELO DE SOUSA Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP