激減する昆虫 独保護区では27年で7〜8割減 人間の生活に影響も

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 ドイツの自然保護地区で行われた調査で、昆虫の数がこの数十年間で激減していることが分かった。有益なものから害虫まで、昆虫全体の数は世界中で減少していると見られているが、原因はよく分かっていない。生態系が破壊されれば、人間の生活も大きく影響を受けることは間違いないため、専門の研究者育成が求められている。

◆世界的に昆虫減少 車のガラスにぶつかる虫まで
 この調査は、博物学者を中心としたドイツのアマチュア・グループ、クレーフェルト昆虫学会が、1989年から2016年までに、ドイツの63ヶ所の自然保護区で飛んでいる昆虫を採集した結果を報告したものだ。特定の昆虫だけを集めるのではなく、捕獲器を置き、捕えられた昆虫全体の重さを測るという方法が取られた。データによって分かったのは、この27年間で、3月から10月にかけてでは76%、虫の多くなる真夏では82%も、昆虫の量が減っていたということだ(ウォール・ストリート・ジャーナル紙(以下WSJ))。

 英テレグラフ紙には、かつてはよく車のフロントガラスなどに大量の虫がぶつかって潰れて張り付いていたのに、近年はそのような虫だらけの車を見ることが少なくなったという読者の報告が多く寄せられているという。これは「ウィンドスクリーン(フロントガラスのこと)現象」と名付けられており、同様の傾向がヨーロッパ中で見られるという。ただし、実際に長期にわたって潰れた虫の数の計測をした研究はないため、昆虫減少の証拠とするのは難しいとのことだ。近年自動車の空力性能やデザインが向上しているため、ぶつかる虫が減ったという見方もある。

◆温暖化よりも別の理由? 原因は仮説の域を出ず
 ドイツの研究では、昆虫減少の理由は特定されていない。地球温暖化の影響が疑われたが、研究の筆頭著者であるオランダ、ラドバウド大学のカスパル・ホールマン氏によれば、過去30年でドイツの気温は若干上昇しており、それならばもっと昆虫が増えるはずだということだ。保護区の周りは農業地帯であるため、そこからの肥料や殺虫剤などが影響したという見方もある。昆虫たちが別地域へ移動したという仮説もあるが、どれも検証されていない。

 テレグラフ紙によれば、イギリスでは花咲き乱れる緑地は激減し、作物への殺虫剤の使用が増加していることから、2006年以降養蜂家の持つ蜂の巣は、毎年減少の一途だという。またイギリス各地で、1970年代から昆虫の数の減少が確認されているということだ。集約的農業や殺虫剤の使用が、昆虫減少の原因だと専門家は見ている。

 WSJは、昆虫は人類のサバイバルに必要だと述べ、野菜や果物の受粉から埋め立てられるゴミの処理まで、昆虫の助けを受けていると述べる。また昆虫がいなくなれば、食物連鎖の上にいる動物も影響を受け、生態系が壊れてしまうとも述べている。

◆人類存続にも影響 地道なフィールドワークが原因究明のカギ
 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)に寄稿したポール・スミス・カレッジの自然科学者カート・ステーガー教授は、昆虫の減少に加えて深刻なのは、現場に出る研究者の減少だと嘆く。同氏は、今日のほとんどの科学者は都市に住み、野生の動植物と直接かかわった経験がないと指摘。理論だけでは複雑な生物や生態系を理解するには不十分だとし、コンピューター・モデルや方程式も実地で拾ったデータなしには役に立たないと主張している。

 同氏は地道なフィールドワークの積み重ねが、過去にリンネ、フンボルト、ダーウィンなどの偉大な業績につながったと述べる。小さな虫を追い続けることは注目もされなければ予算もつきにくいという問題点を提示しつつも、生物に関わる様々な事象の原因と予想される影響を明らかにするには、長期にわたるフィールドスタディが必須だと述べている。

Text by 山川 真智子