欧米で盛り上がる「ボディ・ポジティブ」、そして迷走

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 欧米では数年前から、ボディ・ポジティブ(#BoPo)というムーブメントが盛り上がりを見せている。ボディ・ポジティブの主旨は、画一的な美の基準から解放されて、外見や体型の多様性を受け入れるというものだ。多方面で社会に良い変化をもたらしている一方で、本来の思想とは矛盾する、害ある波及効果も散見される。

◆ボディ・ポジティブという意識改革
 ファッション業界や広告業界は長らく、美しさを型にはめることで、人々にコンプレックスを植えつけて商業利用してきた。しかしSNSの普及に伴い、個人それぞれが思う美のかたちを発信できる場が増えた。結果として、人種や体型にかかわらず、美の多様性を許容すべきだという論調が急速に広がった。フランスでは修正したモデルの写真を使用する場合、修正した旨を記載する義務が法制化されるなど、ボディ・ポジティブは社会全体の意識改革を促している。

                                                                                                                 

 日本ではボディ・ポジティブについてあまり報道されておらず、この大きなムーブメントの存在にピンと来ないかもしれない。だが分かりやすい例として、最近世界的に活躍しているお笑いタレントの渡辺直美さんを思い浮かべてほしい。彼女が注目を集めているのは、ボディ・ポジティブと無関係ではない。彼女は数々の海外主要メディアから取材を受けているが、どの記事も必ず触れているのは、体型に関する彼女の考え方と、彼女がプラスサイズの女性向けに立ち上げたファッションブランドについてだ(ニューヨーク・タイムズ紙、2月2日付)。また、彼女が起用されたことで話題になったGAPのキャンペーンについても、「自分はプラスサイズの代表として抜擢された」と彼女自身が話している(英ヴォーグ誌、1月24日付)。彼女の存在は、ボディ・ポジティブという時流にマッチしているのだ。

 近年はプラスサイズ・モデルの活躍もめざましく、昨年にはアシュリー・グラハムが、プラスサイズ・モデルとして初めて米ヴォーグ誌のカバーを飾ったことも話題になった。だが、肥満率が高い欧米では、プラスサイズの女性たちの活躍が共感を呼びやすいためか、「ボディ・ポジティブ=肥満体型を称賛すること」といった誤解もまかり通っており、そこから派生している問題もある。

◆いびつな「スキニーvsプラスサイズ」の対立構図
 2014年下半期、メーガン・トレイナーのデビューシングルが欧米のヒットチャートを席巻した。「All About That Bass」というこの楽曲は、自身のぽっちゃりとした体型をメーガンが自信たっぷりに全肯定してみせる歌詞が新鮮で、共感を集めた。メロディがキャッチーだったこともあり、各国で1位を記録する大ヒットになった。

 しかし一方で、この楽曲に眉をひそめる女性たちも存在した。歌詞に登場する「スキニー・ビッチ」というフレーズが原因だ。スキニーは「細い」という意味で、ボディ・ポジティブが広がり始めた頃から耳にする頻度が増えたこのフレーズには、細い女性たちへの敵意が込められている。プラスサイズがポップカルチャーの最前線に躍り出たが、英インデペンデント紙(2014年10月9日付)はこの歌詞について、「何かを『良いもの』にするために、その逆を『悪いもの』にするのは、誰も勝つことができない争いを生むだけだ」「理想の体型をすり替えるだけでは、全くボディ・ポジティブとは言えない」と指摘している。

 フランスでは昨年施行された法律によって、医師の診断書によって健康であると証明されたスーパーモデルしか、ショーに参加できないことになった。細すぎるモデルたちの健康面への懸念や、その体型に憧れて摂食障害を患う若い女性たちへの悪影響はかねてから議論されていたものの、スキニーな体型への批判は最近、過剰にヒートアップしがちだ。

 スーパーモデルのベラ・ハディッドが2016年にナイキのキャンペーンに起用された時、「筋肉質でも屈強でもなく、細すぎる」「スポーツブランドなんだから、もっとアスリートらしいモデルを使うべきだ」といった批判が寄せられた。しかし、ベラは馬術競技の優れた騎手であり、ライム病にかかるまでは、アメリカ代表のオリンピック選手を目指していた(英インデペンデント紙、2016年11月20日付)。数々の大会で実績を残してきた彼女に対して「痩せているからアスリートらしくない」と批判するのは、外見の固定観念を押しつけているのに等しく、多様性を認めているとは言いがたい。

 英テレグラフ紙(4月3日付)に掲載されたインタビューは、肥満体型を批判することは許されないが、細い体型を批判することは咎められない現代のダブルスタンダードを浮き彫りにしている。取材を受けたゾーイという女性は、代謝が良過ぎるために食べても太らない体質の持ち主だ。ガリガリになってしまわないように、彼女は意識して毎日カロリーを多く摂取しているが、同僚や友人からは日常的に「最後に食事をしたのはいつなの?」「もっと太った方が良い」といったコメントを投げかけられる。もしも彼女が肥満体型の友人に「あなたはケーキを食べる回数を減らした方が良い」と発言したとすれば、間違いなくその相手とは疎遠になるだろう。ゾーイは「自分に肯定的なイメージを持ってはいけないかのような社会圧を感じる」と吐露している。

 女性の体型に関する著書を複数持つエマ・ウォールフ氏は、体型について口出しされることを不快に感じる細い女性がいても、周囲からは「腹を立てるなんて馬鹿げている。だって細くてラッキーじゃない」と思われがちだと話す(ガーディアン紙、2013年8月5日)。理不尽なダブルスタンダードが、細い者いじめを生み出している。

◆体型にフォーカスした議論では本質を見失う
 英メトロ紙(1月18日付)は、ボディ・ポジティブは体重とは無関係であると指摘している。SNS上で「体重を落としたい」とつぶやけば、自分の体型を愛していないと批判されるケースが見受けられるが、体の形状に論点を置くべきではない。ボディ・ポジティブの本質はセルフ・ラブ(自分を愛すること)だ。自分を肯定できているのであれば、体重の増減は個人の自由であり、他人がとやかく言う問題ではない。また、体重を減らす目的は、見た目が細くなるということに限定されない。肥満体型だった人が自由に手足を動かして運動できるようになれば、体重を減らすことによってストレスも減り、心身が健康になって自己肯定感が増すだろう。目指すべきは、外見や体型の違いにかかわらず全員が健全な自己肯定感を持てる社会の実現であり、体型の優劣を決めることではない。

 ボディ・ポジティブの主旨を履き違えている人たちも多く、一筋縄では行かないテーマではあるが、長いスパンで見ると、少しずつ外見の多様性を受け入れる土壌は育ってきている。例えば、近年のスーパーモデルたちの中には、皮膚病の影響で全身まだら色の肌を持つウィニー・ハーロウや、生まれつきの難病によってユニークな骨格を持つメラニー・ゲイドスなど、ボディ・ポジティブを体現している女性たちの活躍が目立つ。ナオミ・キャンベルが有色人種モデルとして初めてフランス版ヴォーグ誌の表紙を飾ったのが1988年だったが、美の定義がもっと狭義的だった当時には、前述のスーパーモデルたちの活躍は考えられなかっただろう。

 移民が少なく、肥満率も低いために個人の外見差がさほど無い日本では、一見ボディ・ポジティブを理解しづらいかもしれない。だが、年齢を重ねた芸能人が「劣化した」と叩かれたり、薄毛を笑い者にする風潮があったり、あらゆる容姿批判は日本にも存在する。ボディ・ポジティブは、国を問わない恒久的なテーマではないだろうか。

Text by Mika Murai

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