人種差別的と受け取られたダヴの広告は、本当に人種差別なのか

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 アメリカの石鹸ブランド「ダヴ」が人種差別的な広告を公開したとして、批判が殺到している。それに関するメディアの専門家や、広告モデルの見解なども併せて紹介する。
 
◆石鹸広告で表現される「汚れた」黒人
 問題となった広告はダヴ・ボディ・ウォッシュのフェイスブック広告だ。3秒間のGIF画像で、3人の女性が登場する。服を脱ぐと次の女性の画像に切り替わる仕組みだ。黒人女性が茶色いシャツを脱ぐと、淡色のシャツを着た白人女性が現れる(ニューヨーク・タイムズ紙
 
 石鹸広告は、人種差別の問題を孕んできた歴史がある。「汚れた」黒人が、きれいに洗われて白人になるというもの。古くは1875年から1921年にかけて使用されたN.K.Fairbank Companyの広告だ。白人の子供が黒人の子供に「なぜ君のママはフェアリーソープで君を洗ってくれないの?」と尋ねるものだ。
 
 ダヴ広告への抗議は迅速だったが、多くのソーシャルメディアユーザーは、この広告がどうやって、いくつもの確認審査をかいくぐって掲載されることに至ったのかと訝しく思っている。
 
 ユニリーバ社のダヴは、フェイスブック上で次のように謝罪をした。「ダヴは多様性の美しさを表すことに尽力しています。今週掲示したイメージでは、肌の色の表現に関して慎重さを欠いてしまい、気分を害させるものになったことを深く後悔しています」
 
 広報担当のマリッサ・ソラン氏はその翌日、GIFは「ダヴ・ボディ・ウォッシュはあらゆる女性のためのものであり、多様性を祝福する旨を伝えることを意図していましたが、間違った結果をもたらし、多くの人々を怒らせてしまいました」と述べた。また彼女は、既に投稿を削除したことと、「コンテンツの作成とレビューのための内部プロセスを再評価いたします」と付け加えた。広告を見た人数や、アフリカ系アメリカ人も確認審査に参加していたかどうかについての言及は避けた。
 
 フェイスブックユーザーのアリエル・マックリン氏は以下のようにコメントし、1100以上のいいね!が付いた。「基準はなんだったの? 私が言いたいのは、目が付いている人であれば誰でもこの広告がいかに攻撃的なものであるか分かる。スタッフの中のただ一人でさえも、この広告に反対しなかったの? ワオ! もうあなたの製品を買うことはないでしょう」
 
 実際、ダヴだけがこういった問題を引き起こしているわけではなく、インテルやニベアにもあった。しかし、ダヴが2011年にも人種差別的な広告を出しているという事実を、ソーシャルメディアユーザーは忘れていない。
 
◆ソーシャルメディアによる歪められたイメージ
一方USAトゥデイ紙は、人種差別の問題が根底にある現代においては、善意に意図したことであっても、大論争を引き起こしうると分析する。
 
 ダヴ広告が掲載されて間もなく非難の声がわき上がると、元の映像から一部が切り取られ、黒人女性から白人女性になる部分に焦点を当てられたものがソーシャルメディアに広がった。この論争は、特に緊張が最高潮に達しているとき、ソーシャルメディアが流動的でいかに状況をエスカレートさせるかを示している。
 
 ニューヨークのコンサルティング会社であるBrand Simple Consultingのブランディング・エキスパートで創業者であるアレン・アダムソン氏もこう語っている。「もし長い話から一部のイメージを切り取ってみた場合、異なった意味を持つ可能性があります。特に偏極した市場では、何かがコンテキストから取り除かれるため、話をコントロールし管理するのは本当に難しい」
 
 一部抜粋されたものと、3人の女性が現れる元の映像では、違った印象を持つ視聴者もいた。元の映像には問題が無かったとし、「多くの視聴者が2つの写真だけをみて、早合点していたことに気づいた」とニュースサイトにコメントする視聴者も見られた。
 
 しかし、シカゴ・ケント大学法学部のローシーズ・エアーズ氏はこうコメントしている。「イメージは、明るい肌ほど美しいという美の基準を表現していた。女性がシャツを脱いで他の人になる必要があるのか分からない。ダヴが何を伝えようとしたかはさておき、消費者は人種差別と受け取った。美の価値観基準を変えていく最前線に立つというブランディング戦略をとってきたのだから、視聴者が何を求めているのか、また制作過程について厳しくみていかないといけない」という声もある。
 
 オンラインでは、炎上目的の広告ではないかという声もあったが、ソーシャルメディア専門のフロリダ大学の教授であるアンドリュー・セレパック氏は否定する。「何年か前に同様の問題がなかったらともかく、それはないだろう」
 
◆「私は被害者ではない」
 一方、渦中の人となった黒人モデルの女性は、自分は被害者ではないという趣旨の主張を行っている。

「私はとても小さな頃から、黒人にしてはとてもかわいいと言われてきた。ロンドン生まれ、アトランタ育ちのナイジェリア人。肌の色が明るい方が美しいという社会通念を十分意識して育ってきた。歴史的に、また今日にあっても、多くの国ではいまも肌の色の暗いモデルが美白化粧品の実証に使われている。こういった状況の中、新しいボディ・ウォッシュのキャンペーンの顔になるチャンスをダヴが提供してくれ、私は飛びついた。グローバルな美容ブランドで浅黒い肌の代表となることは、私たちの存在、美、価値を表現するベストな方法だと思ったから。だからこの論争にうんざりしている。撮影の間、最終的な仕上がりは分からなかったものの、モデルの3人はお互いにこのそれぞれの肌の色のTシャツを着て向き合うというアイディアに興奮した。前後のモデルよりも劣っているという表現を自分がされたともし私が思ったのであれば、私が最初に広告を批判していただろう。広告は誤解されているが、私はキャンペーンの犠牲者ではない。私は強く、美しい。私は消されない」(ガーディアン紙)。

Text by 鳴海汐