路線バスにまで慰安婦像……日韓の根深い問題、海外メディアの見方は?

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 韓国・ソウルの路線バス車内に慰安婦像が設置された問題に関して、海外各メディアは日韓の歴史認識の隔たりを伝えている。議論が過熱しがちな当事者国と異なり、日韓どちらにも改善すべき点があるのではないかとする冷静な論調が目立つようだ。

◆日本を刺激する意図はないと見るメディアも
 英紙ガーディアンは、今回の慰安婦像の設置はあくまで韓国国民をターゲットにしたものだとの背景を伝えている。バス会社責任者は、女性たちの経験を韓国の人々に伝えることが目的だと説明しており、日本への直接的な非難を意図したものではないようだ。また、ソウル市長は「犠牲者に敬意を表するため」としている。結果的に日本の反発を招いたが、韓国の意図とは違ったという見方のようだ。

 一方、米メディア『マッシャブル』の記事はやや異なる見解になっている。バス会社社長は「日本人に不快感を与えたくはないが、問題を忘れたくはない」としているものの、当該バスは日本旅行客にも人気の観光スポットを巡るほか、日本大使館前を通過する際に韓国の伝統民謡『アリラン』を流すとのことだ。結果として、やや直接的に日本を意識しているようにも受け取ることができる。像設置の真の背景については、海外メディアの間でも見方が別れているようだ。

◆日韓を中立の立場で論じる英米紙
 慰安婦問題についての日本の取り組みを海外紙も報道している。評価がある一方で、手放しでの賞賛とまではいかないようだ。ガーディアン紙は、1965年の日韓基本条約で謝罪および賠償問題は解決したという日本の立場を報じた上で、以降も元慰安婦を支援する基金に拠出するなどの姿勢を伝えている。その一方で同紙は、日本側の示す「慰安婦像の撤去」という条件が問題解決を難しくしているとも指摘する。

 日本側への評価はニューヨーク・タイムズ紙も似たトーンだ。安倍首相が元慰安婦に謝罪の手紙を送らないなど日本側にも一定の原因はあるとしている。しかし韓国も過去に釜山にも銅像を建てており、その撤去を拒否している。これが駐韓外国官の一時引き上げ問題を招き、さらなる関係悪化に繋がった。英米のメディアは日韓双方に改善できる点があると見ているようだ。

◆両国ともに譲歩しづらい状況で問題長期化へ
 慰安婦問題が長期化しているのは何故だろうか? 米ニュースサイト『INQUISITR』では、互いに譲歩しづらい環境があると分析する。日本では、一部の慰安婦は商売として自ら参加したとの見方がある。他方、韓国では、強制的に徴用されたとの認識が一般的だ。教育を通じて次の世代にも一方的な見方が受け継がれるため、中立的な世論に至りづらいと同サイトは指摘する。

 中庸な意見を持つことの難しさは、ニューヨーク・タイムズ紙も論じるところだ。朴裕河(パク・ユハ)世宗大教授は、慰安婦問題を純粋無垢な少女の問題と捉えるべきではない、との意見を自著『帝国の慰安婦』で発表した。結果、生存する元慰安婦の団体から裁判で訴えられ、韓国国内で「親日家の裏切り者」のレッテルを貼られた。他国に歩みよった意見を表明することの難しさが伺える。

 なお、ガーディアン紙も指摘するように、韓国では5月に選出されたムン・ジェイン大統領が2015年の慰安婦に関する日韓合意の見直しの意向を示すなど、問題がさらに泥沼化する兆候があるという。反日・反韓感情の比較的少ない若い世代も育ちつつある中で、政府レベルでも問題が早期に解決することを願いたい。

Text by 青葉やまと